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母のなきがらを家に残し、ぼくは外に出て、いい案を搾り出そうとした。母の葬送のすべの案だ。
とにかく外に出て、うろうろしようと思った。死者にまつわる妖しい冷気が漂う家の中にいては、虚しさに気が狂いそうだった。
家を出、道を歩き、しばらくすると、木立に来た。材木屋が木材を取りに来るアカマツの木立だ。長く伸びた幹の上の方では、針のような葉っぱをおびただしく付けた枝があちこちに伸びている。
ここに母を運んで来、土に埋めてしまうのはどうだろう。土に葬れば、後は地下に栄養になり、残るのは骨だけだろう。
簡単なように思えるが、その実、難題は幾つかあった。そもそもスコップがなかった。誰かから借りてこなければいけない。自分専用のものがあればどうということはないが、ひとに借りるとなると、借りる正当性を示す明白な理由がなければならない。母を埋めるのだとは絶対に吐けないし、かといってうまい嘘を考えるには頓智がいる。スコップを使わなければならない用事など、何があろうか……。
湖などの深い水に沈めることを考えてみたが、遠すぎるし、火で焼くことを考えると、棺がなかった。
まず、母の遺体を出来るだけ正当なやり方で葬るということが絶対条件なのだ。母の死は決してぞんざいなやり方で決着させてはならない。でないと、遺恨を作ることになる。母の死を悲しみ、その悲しみを克服するための儀式を、粛々と行わないといけないのだけど、たったひとり、ぼくの独力でどう出来るというのか。
――。
アカマツの木立で茫然自失して立ち尽くしていると、誰かの人影が見える気がした。
口に何かを咥えている。白煙がもうもうと立っている。葉巻だ。
男だった。そして彼の姿に、ぼくは見覚えがあった。
ぼくが彼を認めるのと同じくらいのタイミングで、彼はぼくを認めた。
ちょっと言葉を交わしただけで名乗りもしなかったけど、お互いに相手の相貌を覚えていたようだ。
「お前は、何か見覚えがあるな」
チュニックを着、ズボンを履いて、首の周りに頭巾を羽織っている彼は、短くなった葉巻を捨てて踏みにじると、ぼくをまじまじと見、目を細め、合点が行ったように、片手で顎を持った。
「あぁ、風呂屋で見た顔だ」
「……。」
大人の男というのは、あまり心を開ける相手ではなかった。父は早死にしたし、その他の男といえば、農場でぼくらを軽蔑し、嘲弄し、時には罵倒する現場監督、もしくは広大な土地と労働者を占有し、酷使する領主くらいしか知らない。
「どうした。こんなところで突っ立って。道にでも迷ったのか? おれは、まぁ、小休憩にぶらぶらしに来たんだが」
おずおずと怯えるぼくに、彼は近付いてくる。
目の前まで来る。その陰が、ぼくを覆う。アカマツの森は静かだった。
「怖がるなよ」、と言って、彼はぼくの肩に手をポンと載せた。「別に取って食おうというわけじゃないし、何か込み入った事情があるなら、話せよ。聞いてやるぜ」
わりに優しい言葉をかけてくれるものだと、意想外だった。
だが、まだ、ぼくは半信半疑だった。