***
教会や聖堂を巡って方々へ足を伸ばしていたブルーノは、そこかしこで、暴威の跡を見、胸がムカムカした。
あるいは何か手がかりとなる情報を知っているひとがいるかも知れないという希望を持って旅しても、荒涼とした廃墟を目の当たりにして首を振るばかりだった。
世の中には、宗教があり、しかし、たったひとつではなく、複数あり、また、ひとつの宗教をとってみても、いくつかの宗派に分かれているなどする。
ブルーノには、知っている宗教があれば、知らない宗教もあり、神職ではない彼が有する知識は、ごく一般的なものであった。
彼の生活圏では、しかし、ある宗教が支配的で、他はマイノリティであり、その宗教というのは、何百年という遥か昔に生まれたものであり、歴史があり、この世の中にしっかりと根付いたもので、夥しい信者を持って存在していた。
彼の生家も、その宗教を信仰し、地域の教会に属し、決してマメに礼拝や祈祷はしなかったけれど、折に触れてある冠婚葬祭では、その宗教が指示する方式にのっとった。
だから、見たことのない建築の教会や、聖像を見ると、多分異教だろうという風に推知するけど、珍しいので関心を持つのは無理もなかった。
山中のある広場に、宗教施設と思しき建物があった。神殿のようだった。格子の門を構え、美しい庭の石畳の道を行き、低い階段を上った先に、太い円柱の車止めがある。その奥は扉だ。全て、白い石で出来ている。
神殿のてっぺんに、聖像がある。子供の像だ。少年か少女か分からないが、羽を生やした巻き毛の子供が、深く目を瞑って俯き、両手を組み、祈っている。
ひとりの祭服を着た助祭らしい若い男が、鋏を持って、前庭に、物陰より現れた。庭仕事の途中のようだった。
「……?」
彼は、ボサッと突っ立って上を見上げているブルーノに気付き、怪訝そうにしばらく灌木の陰より窺うように見やると、近くまで行き、「失礼ですが」、と丁寧に話しかけた。
ブルーノは我に返ってハッとし、遅れて助祭の存在に気が付くと、慌てて色を正し、「ちょっと眺めていただけです」、と取り繕った。
すると、助祭はにこりと笑み、「そうでしたか」、と返した。
「美しいものには目を奪われるものです」
「すいません。見慣れないものでして。この神殿は、ぼくの知っているものとは違うようですけど……」
これまで巡った寺社と村が全て壊滅していたというのに、妙だとブルーノは思った。この施設は、まるで忘れられたように、外敵の襲撃を受けた痕跡が絶えてなかった。
助祭が名を教えてようとするその直前、神殿の扉が開き、ひとり、彼と同様、真っ黒の祭服を纏った男が、腰の後ろに手を組んで、何とも悠々と現れた。
老熟した風貌で、腰はやや曲がっており、白髪が多く、その年齢を偲ばせる。
彼は微笑し、外の空気でも吸いに出てきたようだった。
「おや……」
老人は、最初、ブルーノを見、来客かと思ったが、そのぼんやりと見える面影に覚えがあるのか、しばらく記憶を紐解くように押し黙ると、やがて思い当たることがあったように、階段を下り、道を通って、ブルーノの近くまで来た。
「どこかで、お会いしたように思いますが」
「はぁ」
ブルーノはだが、赤の他人だと思っているようで、面倒臭がるように、やや戸惑った声色で返した。
だが、助祭が「ヨハネス導師」、と彼を呼び、ブルーノについて、旅人のようです、と簡単に紹介した時、ブルーノは、頭をツンと突かれるのに似た感覚を覚えた。
ブルーノの方においても、目の前の男に、ひょっとすると因縁があったかも知れないという思いが、鈍くはあったけれど、閃いた。
そして、ヨハネスという名が、ブルーノを遥か昔へと
***