***
山を離れて森に囲まれた村は、手練れの職人たちが住まい、地の利を活用して、木々を材料に、建築や、家具製作や、キノコ栽培など、各人が各職を司り、堅実に暮らしを営んでいた。
よりもっと文明が発展し、人口の多い都会では、職人というのは、どちらかというと、卑賎と見なされ、婚約相手などには尊ばれにくかったが、その村では、職人がいちばん偉く、いちばん実力があった。
村に居住する各家では、互いの結び付きが強く、連帯感があり、妻をめとるのも、嫁いで夫の家族に仲間入りするのも、都会ほど複雑でも困難でもなく、従って、世代が長続きし、また、新しく生まれる子供も、先祖という存在を大切にし、その伝統を篤実に継承するのだった。
彼らは、先祖と同様、土着の宗教を重んじ、聖職者は常に尊ばれ、教会は単なる儀式の場に限らず、村民の憩いの場でもあり、村を統治する中心でもあった。
ある日が来るまでは――。
村において、番兵は基本的に、職人仕事に適しておらず、また性格的に難のある者が務める習わしとなっていた。
周囲の森を壁同然となし、特別村の境界線を設けていなかったその村は、のんびりと平和だったので、番兵といえど、戦闘などろくに出来ず、ただボロい鎧を着、刃のにぶい武器を持って村の端っこに突っ立っているだけだった。実際、彼らの仕事といえば、森に迷い込んだ者の案内や、餌を求めてうろうろする猛獣の撃退などであり、番兵とは名ばかりで、半分自由人だった。
その日、番兵のひとりは、秋の陽気に快くなり、思わずあくびした。目に涙がたまり、とてつもなく眠たくなった。立って寝ることは、彼にとっては、慣れたことだった。
しかし、何やら異音が遠くの方でし、最初空耳だと思って気にしなかったが、段々と音量が増し、近付いてくるので、緩み切った警戒心がにわかに引き締まり、押し迫る事態を恐れ、緊張の糸が張り詰めた。
音が聞こえる森の暗がりをじっと見つめ、やがて、とても友好的とはいえない雰囲気をまとった騎兵の部隊が列を成して疾駆してくるのを確認した時、番兵は慣れない仕方で、大声を上げた、敵襲だ――!
電撃が村を走り抜け、村民はこぞって慌ただしい足取りで外に出た。番兵は武器を構えたが早いか、近付いてきた先頭の騎兵に、馬上より、紫電一閃、振り下ろされた大剣に手もなく斃れた。
いったい何者だと問うまでもなく、村民は敵襲を悟って一気に危機に陥り、しかし、日頃の平和に慣れてしまっているため、咄嗟の判断が出来ず、敵の奇襲をモロに被り、抵抗の姿勢を見せるものは、例外なく騎兵の手にかかって無残に死んだ。
だが、命乞いするなり、怯えるなりすれば、彼らは手を出さなかった。
歯向かえば容赦しない、だが、我々のもとに来ることを選択するなら、その命は保証しよう――
大声でひとりの兵が叫んだ。
そのメッセージは空気を伝って村中に広がった。だが、状況は渾沌を極め、あっちでは、女が涙を流してじぶんは見逃して欲しい、子供がいるのだと哀訴し、こっちでは、職人の親方が、半狂乱の状態で工具を手に騎兵に襲い掛かり、だが、返り討ちにあって血まみれとなって斃れるのだった。
***