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結局、恩人への気兼ねや躊躇を断ち切れず、去ろうとするヨハネスに、核心に迫る問いを投げかけられずに離れ離れになったブルーノは、物思いに沈んで、何日か過ごした。その間も旅したが、気もそぞろに足を運ぶだけで、地図も見なかった。
彼はだが、真相に迫ることを避けていては、どうにもならないとみずからを責め、改心し、本来の目的を確認した。
山間の寒村に子供たちを置いてきたのだ。
フリッツとミアのことだ。まだ声変わりもしていない年齢だ。大人の庇護をまだまだ必要とし、単体では脆弱で、彼らの生活の面倒を見てやる成人がそばにいることが望ましい。
早く帰ってやらないと……ブルーノは、彼らの存在を思い返すと、にわかに気持ちが張り切ってくるようだった。
――怪しい気配がした。地図にチェックを入れた村の内のひとつに、ブルーノは接近していた。
辺りには、森を通る風声と葉のこすれる音しか聞こえないようだったが、よく聞いてみると、誰かの叫び声が、悲鳴が、聞こえた。
この村に、ヨハネスはいるのだろうか。
ブルーノは確信を持てなかったが、村内を占拠しようとしている兵士の装いが、山中の神殿に現れた兵のものと同じだったので、同一の勢力に属する兵に違いなかった。
混乱を極めている状況で、ブルーノは村に進入した。
鎧も着ず、兜も被っていない彼は、彼を知らない者にしてみれば、村人のひとりにしか見えず、その点で、ブルーノは目立たなかったが、剣と盾があることで、兵士からは、番兵と見られ、教会に向かって駆けていく彼を、騎兵のひとりが標的にし、追い、馬上より槍で突こうとした――
ブルーノは瞬時に背中の盾で自衛し、盾に対して真正面より槍で突いてしまった騎兵は、攻撃を弾かれた反動で落馬し、そのスキにブルーノの一撃で死んだ。
ブルーノはすぐに、兵士を下手に刺激して要らぬ戦闘をしなくて済むよう、装備をすっかり放り投げ、殺した騎兵の馬に飛び乗り、鞭打って再び駆けた。向かう先は教会だった。彼らの狙いは、把握していた。
馬を下り、塔である教会の扉を恐る恐る開いて中に入ると、ちょうど、神父が複数の兵士に追い詰められているところだった。
両開きの木の扉が開かれると、ひとりが「誰だ!」、と叫び、振り向いた。
「旅の者ですが」、とブルーノ。
「何?」
余りにも素っ頓狂で場違いである旅人の登場は、兵士たちの注意を一手に惹いたようだった。
ブルーノは間抜けのフリをして緊迫感に包まれていた場の雰囲気を和らげると、落ち着いて辺りを見回した。――導師の姿は、なかった。
教会の中は、その規模に比例して狭く、祭壇も小さく、その前に並ぶベンチも、辛うじて村の人々を収容出来るくらいだった。
「ヨハネスさんを探しているのですが」
「導師様をだと? 貴様、いったい何者だ。ただの旅の者ではないと見たが」
「いえ、大した者ではありません。ヨハネスさんとは、ちょっとしたよしみがあるだけです。」
「いずれにせよ、今は見ての通り、取り込み中だ。要件は後にしてもらおう」
教会の神父らしき、祭服を着た男が、兵士の前にぐったりと跪き、
「よってたかって――」
ブルーノはボソッと呟いた。
「よってたかって、拳も震えない弱い相手を蹂躙して、おんなじ人間だっていうのに、どういう筋合いがあって、こういう真似が出来るんだ……?」
震える手で拳を握り、彼の内では、怒りが段々と昂ろうとしていた。
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