***
「観念しろ。神の思し召しだ」
そう言って、諦めて脱力し切った神父のそばに立つ兵士が、剣を両手で振りかぶって言う。
神父の命は、もう風前の灯だった。
その光景を、間の抜けた旅人を装って目の当たりにしているブルーノは、みずからの知っている情報と、その情報より立てられる仮定を立て、考えた。
――ヨハネスが去った山中の神殿で、ブルーノは、分厚い書物、思うに聖書であろうものを小脇に抱えて廊下を行く、神殿で勤務する修道僧を捕まえ、率直に質問してみた。
「なにぶん世間知らずでして、伺いたいのですが」
「はぁ」
修道僧はやや迷惑そうに応じる。
「あなた方の信仰する宗教とは、どういうものなんでしょう? 新興のものであることは存じているのですが」
「入信をご希望で?」
修道僧は、迷惑がる渋面が一転して笑顔になった。そのわけは、こういうことだった。彼は、ブルーノが、興味を持ってはるばる山中まで訪れ、同じ宗教に加入し、神殿において最も偉い聖職者の管轄下に入ることを希望していると早合点したのだ。ブルーノが、何か生き方に迷ってすがる思いで門戸を叩きに来たのだという風に見えた。
ブルーノは、「いや」、と否定しかけたが、修道僧の気分を害するのではないかなどと懸念し、まずい気がして、「えぇ、まぁ」、などと半端に濁した。
「我々の『真光教』に入られるのなら、大いに歓迎いたします」
修道僧は、こちらへどうぞ、と、ブルーノを案内しようとくるりと振り返り、廊下をある部屋へと向かって歩き出した。
修道僧が扉を開けて、彼が先に、ブルーノがその後に、入室した。
部屋は、図書室のようだった。みっちりと本の並ぶ本棚が列を成してあり、高価である書物が汗牛充棟という具合で蔵してあることからは、彼らの高い経済力が窺い知れるようだった。
「別に本読みしに来たわけではありません。手近にある、ちょっとした説明が出来る部屋が偶然、この部屋だっただけです。もちろん、ご自由に閲覧なさってもかまいませんが」
「その必要は」、とブルーノは答えた。「恐らくないでしょう。じぶんは頭がよくないので、書物などというものとは生来無縁でやって来ました」
「結構です。我々の教えは、決して賢いことを強要するものではありません。導師も――」
修道僧は、図書室の壁の一面に目を向けるよう、手で指示すると、続けた。
「――ヨハネス様は、とてもお優しい方ですから」
壁には、広い額縁に収まった、胸より上が描かれた肖像画があり、黒い祭服を着る白髪の男が、微笑んでいる。
「布教活動をしていると聞きました」、とブルーノは修道僧の方に目を戻して言った。修道僧も、手を下ろし、ブルーノの方に向き直った。
「えぇ、その通りです。不浄の世を清める活動をしています。混沌に秩序をもたらし、悪を除き、正義を広めるのです」
「その活動は、例えば……旅をして、町村を訪れて、道端で説法して回る、という感じのものでしょうか?」
「そういうこともしております」
「そういうことも、ということは、他にも、布教活動と称するものがおありだと?」
「えぇ、迷える子羊の中には、聞き分けの悪い者もおりますので、改心するならばいいのですが、その見込みがなければ、一色に染まる来るべき世界における汚点となりますので……」
修道僧は、目を伏せてゴニョゴニョと言い淀み、うまく聞き取れなかった。
そして、彼が絶対の自信を誇りながらも、一部においては、良心の咎めを感じていることが、その様子から、何となく見えてくる気が、ブルーノにはするのだった。
***