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ブルーノの死相は、とても安らかだった。
苦痛に歪んでいた顔が、両目が閉じ、姿勢こそ、おかしいものの、まるで眠っているようで、多分、彼はうまくやってのけたのだろう。
まだ泣き足らなかったが、涙を拭い、一旦、みずからの感情にピリオドを打ち、木立を出、コンラートさんの家へ戻った。
扉を開けると、中で待っていた全員が、一斉に振り向き、ぼくの帰りを待ち焦がれ、ブルーノの消息を知りたがっているようだ。
「おかえり」、とミアが言う。「ブルーノさんは……? 結局、ずっと帰ってこなかったけど」
ぼくは、ミアの心配する目を見つめ、どう返せばよいのか思い付かず、顔を俯けて、口を噤んでしまった。
「杖が、落ちてたんだ」
「杖?」 ミアは釈然としない風に聞き返す。
だが、リフレとコンラートさんは、何となく事情を察したらしく、険しい表情になり、物思いに沈んだようだった。
「やっぱり……」
リフレは、そう独り言を言い、コンラートさんは、何も発言しなかったが、深いため息を吐いた。
「何よ、みんなして……ブルーノさんが、一体どうしたっていうのよ……」
ミアも、おおむね、ブルーノがどうなったのか、漠然としてはいるものの、その真相を感知しているに違いない。
元々、彼女は予感していた。そういう、考えられる局面が、実際に現れるかも知れないという可能性の、認識があった。
「いっしょに、来て欲しいんだ」、と、ぼくは求める。「ブルーノが、待ってる」
リフレが立ち上がり、コンラートさんも立ち上がり、出かける態勢になった。
ミアは、しばらく、まるで怖気を震ったように、その場で顔面蒼白になってじっとしていた。
ミアを無理に誘うのはよくないかも知れない、彼女にとって、これから向かう現場は、ショッキングに違いない。そう、ぼくは考えた。
「無理して来なくていいんだ。ここで待っていてくれても、大丈夫」
ぼくはそう、優しく助言した。
「ねぇ、フリッツ」
ミアは、目線を落としたまま、そう呼びかけた。
「うん」
「わたし、何となく分かるの。あなたが、何を見てきたのか」
「……」
ぼくは、何も答えなかった。全てを今説明するのは、野暮というものだろう。
「わたしは、今まで、そういうのを見た経験が全然ないから、怖いの」
「怖いのは、当然さ。ぼくだって……」
そこまで言いかけて、ぼくは口を閉じた。
「でも、行くわ」
ミアは、おもむろに立ち上がる。そして、ぼくの方へ寄ってくると、ぼくの手ではなく、その指を取り、ぼくと手を繋ぐような恰好になった。
「平気。行きましょう」
ミアは、にっこりと、無理していることが明らかだが、笑顔を満面に湛え、ぼくにそう言った。
ぼくはいたたまれない気持ちになり、彼女の手をほどくと、ちゃんとお互いの手全体がいっしょになるように、握り直した。
リフレと、コンラートさんは外に出て、静かに、ぼくらを見守り、待ってくれている。
「それじゃ、行こう」、と、ぼく。
「えぇ」、と、ミア。
秋の空が、穏やかで、ぼくはよかったと思う。
雨でもなく、曇りでもなく、晴天であることは――明るいことは、やっぱり、気分が落ち込み、完全に沈んでしまうのを防いでくれるような、そういう気がした。
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