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一日が経った。
天気が変わり、夜中に流れてきた雲が晴天を満たし、雨を降らせた。冷たい、打たれるとみじめな気持ちにする冷雨だった。
ブルーノは、出来る限り早く、弔い、葬ってあげないといけなかった。もう秋とはいえ、放っておけば遺体の状態が悪くなる。
――しかし、彼は生前、みずからの死に対して、どういう考えを持っていたのだろう。
様々な経験を通じて鍛え上げられた、思想といえるようなものが、あるいはあったのかも知れない。
今となっては全て闇だが、仮にブルーノの希望があるのだとすれば、それに沿ってあげるのが、彼への義理というものだろう。
ぼくには分かる由もないが、もしも、じぶんが死ぬとして、やっぱり、ふるさとに葬ってもらいたいと思うものなのだろうか。
結局、ブルーノは、異境で客死することになった。旅人の彼には、ひょっとすると、なじみのない土地で眠るというのも、満更、イヤではないかも知れない。あくまで、ぼくの憶測に過ぎないけど。
遺書のたぐいはどこにもなかった。遺書があれば、彼の思いがよく分かって、よかったに違いない。
だが、ぼくを始め、ミアも、リフレも、コンラートさんも、傷付いて戻ってきたブルーノの世捨て人じみた、自暴自棄で、捨て鉢な生活を見てきているので、ぜんぜん納得出来ないということはなく、誰も彼も、彼の自死に際して、言うまでもなく、驚倒したし、悲しみもしたけど、さもありなんという感じだった。パン屋のメルさんも、頻繁には来なかったけど、ミアからの話で、今回の事情に関してはほぼ精通していた。
ブルーノはコンラートさんの家に安置された。
ぼくと、ミアと、リフレと、コンラートさんは、額を集めてこれからのことを合議した。コンラートさんだけ、ベッドに座り、ぼくら三人は、彼に向かって立っているという恰好だった。
「この村に、聖職者はおられますか?」
ぼくは尋ねた。
「教会も、墓地も、見当たらないのですが」
「あるにはあるし、聖職者もいる」、と、コンラートさんが答える。「尼僧だがな」
「尼僧?」
「女の神職っていうことさ。教会も、この村から離れたところにあって、目立たない。そういうわけで、教会へは、ちょっと歩かにゃならんのだ」
「分かりました。行きましょう」
「善は急げというしな」
そう言って、ベッドより立ち上がろうとしたコンラートさんは、老人らしく、腰に手を当て、痛そうに顔をしかめ、呻いた。
「無理はなさらないで」、とリフレが彼を制止する。「コンラートさんは、わたしの牛車に乗ってください。道案内を願います」
「分かった。すまない」
そういうわけで、ぼくらはちょっと出かけることになった。
ブルーノはもちろん、家に置いていく。どの道、すぐに帰ってくるのだ。コンラートさん曰く、教会の在処は、そう遠いところではないらしい。
もしも――ぼくは自然と、こう想像してしまうのだが――尼僧と、葬儀やら何やらの話を付けて、家に帰ってきた時、今までの全てが嘘で、ブルーノが死んでなどおらず、無傷でピンピンしていて、ぼくらに向かって、どこへ行ってたんだ、などと陽気に話して、また新たな旅へと導いてくれれば、どれだけ安心し、歓喜し、幸せを噛み締めることだろう。
だが、今薄暗い家の中に、ひとり、置き去りにされる遺体の、血の気のない死相を見ると、冷然たる現実にむなしく引き戻され、そんな淡く儚い妄想への自虐的な苦笑いさえ、出てこないのだった。
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