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棺もなく、ブルーノは、雨の下、また牛車の荷台に大きな布でくるまれて――あの時と違って、息絶えた体として――教会へと運ばれた。
荷台にはコンラートさんもやはり乗っており、荷台を牽く牛は、前と比べてのろく、でも、仕方のないことだった。
一日経っても雨が止まず、道はややぬかるんでおり、単純に、不快だった。心まで暗雲に満たされて、すっきりしない気分だった。
教会に着くと、カタリーナさんが教会の正面に立っていた。ずっと待ってくれていたようだった。
「お疲れ様。大変だったでしょう」
カタリーナさんがそう言う。
「雨さえ降ってなけりゃ、もうちょっと楽だったんだが」
コンラートさんがそうぼやくと、彼女は微笑み、「お天道様に文句言ってもどうしようもないわ」、と返した。
「どうして」、とぼくは問うた。「教会が、村から離れたところにあるんですか?」
「前は」、とカタリーナさん。「村の中にあったのよ? でも、もう亡くなったんだけど、村長がとても敬虔なひとでね。教会は俗事を超脱し、離れていないといけないっていう考えで、ひとびとの生活圏から逸れたところに、教会を設けたの。けっこう不便だけどね」
彼女は苦笑する。
そういえば、村長らしき人物には会っていなかった。村全体を見る限り、コンラートさんが多分、最高齢で、知らなければ、村長と捉えてもおかしくないのだが、実際には、カタリーナさんの話によれば、やや変わり者だったため、嫁いでくる女性という女性と親密になれず、ことごとく別れ、結局最期は、ひとりだったらしい。
「ある噂があるんですけど」、とぼくは言う。「知ってますか?」
「噂?」、とカタリーナはきょとんとして聞き返す。「さぁ、何せ外との繋がりの少ない村だからね。村で起こったことは、ほとんど何でも知ってるけど、外で起こったことは、分からないわ」
「そうですか」
――ぼくの中で符合したのは、ブルーノがどうしてこの村を拠点に選んだかということで、つまり彼は、思うに、宗教施設を標的とする敵勢力の性質を鑑みたに違いない。加えて外部との関係も盛んでないことで、比較的目立たず、そのため狙われにくいとでも踏んだのだろう。実際は、分からないのだけど。
カタリーナは、首を傾げて、クエスチョンを浮かべている。
「いいんです」、とぼくは、わざとらしく、みずから切り出した話題を撤回して言う。「大したことじゃないですから……」
「フリッツくん」、とリフレが呼ぶ。「『彼』を、運び入れてあげましょう」
「あっ……」
ぼくはハッとして、牛車の方を見る。荷台に横たわる布にくるまれたブルーノは、雨ざらしになって、その布には雨粒が浸み込んだ細かい水玉模様が現れている。
「力仕事が出来るのはぼくら二人だけなんです」
「そうですね」
ぼくとリフレは、牛車の荷台より、ブルーノを、それぞれ肩と脚を持って持ち上げると、尼僧の指示で、祭壇の前に安置するため、教会へと運んだ。
牛車を牽く牛は、雨の当たらないところにいったん止めておかれ、ミアが、ぼくらの後に続いて教会に入り、コンラートさんとカタリーナさんが、最後で、扉が閉まった。
天気が悪く薄暗い教会で、簡易の葬儀が催され、ぼくらは祭壇に向かってベンチに座り、尼僧は、正面に立って、祭壇に鎮座する聖人へ、祈祷の辞を森厳に述べた。
ぼくらは皆、目を瞑って両手を組み、黙想し、死者の魂の安寧を願い、一方で、ぼくは、ぼくが彼と続けて来た旅のこれからを思い、憂え、展望がなく、落ち込んだ。
だけど、彼の遺志は、確実に、ぼくの中に宿っていて、彼が求めていて、得られなかったものを、ぼくは同じように、求めようと思うし、彼が望んでいて、成せなかったことを、成そうと思った。
葬儀は、厳粛な雰囲気の中で進む。
ふと、気付くと、微かな嗚咽が漏れているのが聞こえ、ぼくはゆっくりと目を開いたた。
ふと、隣を見ると、ミアが、祈りの姿勢で、涙を流し、目元が真っ赤になるほど、泣き腫らしているのだった。
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