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霊園には長い穴が掘られており、ブルーノは、そこに埋葬されるのだ。
ぼくとリフレは、ブルーノをいっしょに運び、ゆっくりそっと、彼の冷たい体を墓穴におさめた。土の中に、ずっといっしょだった相手が、生白い顔色で眠るように横になっているのを見下ろすのは、もちろんとても悲しかったのだけど、同時に、ずいぶん奇異でもあった。
カタリーナがずっと唱える祈祷の言葉をバックに、ミアとコンラートさんが献花をした。ミアの涙は、この悪天の陰雨に混じって、あるいは土壌に浸み込み、あるいは流れた。
「故ブルーノの魂が、安らかに、旅立ちますように」
やがて、カタリーナの祈祷が終わり、ぼくらはそれぞれそばの盛り土を掘った穴の中へと入れた。
「ブルーノ……」
そう呟いたぼくの声は、誰の耳にも届かず儚く消えた。
本当のお別れが近付いていた。母の時が、自然と思い出される。
そう、遠くない記憶だ。
ぼくは母と二人暮らしで、しかも貧しかった。伝染病に罹って母を亡くしたぼくは、孤児であり、もうあらゆる希望を失ってしまったようだった。
だが、そんなぼくのところに、ブルーノが現れた。風呂屋で話しかけて来、ちょっと打ち解けて話して、ぼくは彼に、母の死を告げた。
彼はぼくの心細いことを見て取り、助けの手を差し伸べてくれ、彼の助力で、母はつつがなく葬られ、家なきぼくは、彼に付いて、旅をすることになったのだ。
――パッ、パッ、と、土がブルーノに降りかかる。だんだんと、彼の全容が、土に覆われて、見えなくなっていく。彼がみずから死を選んだ真意も、まるで分からないままに。
――また、ひとりぼっちだ。どうすればいいのかなぁ……。
いっそのこと、ぼくも、事故か災害で冥界へ
不幸な生が、呪いだとすれば、ぼくは、呪われているのだ。呪われて、この忌まわしい出来事ばかりが起こる人生に深く囚われている。
こういう苦悩を、宗教というものは、癒してくれるのだろうか。何か目覚ましい教えを与えて、解消してくれるのだろうか。
ぼくだけ、土を遺体にかぶせるということをせず、茫然と、空を仰ぎ見る。
天は低く、遮られている。何も見えない。何も分からない。
生活における、しなければならないことが、ぼくに直接、落ちかかってくる。
幸運な子供のように、母も父も元気で、守られた、安全な家庭があり、信頼できる友人がいるなどすれば、こんな重圧を、ひとりで負う必要などないのだろう。
何も知らないし、何も出来ない年端もいかない少年が、たったひとりで、どうやって彼みずからの生活を不足なく営むことが出来よう?
無茶だった。
この世界は、未来は、ぼくには閉ざされているとしか思えなかった。悲観的な考えを拭うには、ぼくはあまりにも、備えも、胆力も、足りなかった。
だが、ぼくはまだ生きているし、これからも、まだしばらくは生きるのだろう。運命が、ぼくを待ち構えている。生かすのも運命だし、殺すのも運命だ。
ミアを見る。彼女はずっと泣いている。悲しいけど涙の出ない、彼と付き合いの長いぼくよりも、ブルーノのことを悼んでいるようで、ぼくは情けなくなった。
だが、彼女の純真そうな泣き顔を見ていると、何も出来ないぼくでも、その悲しみを癒してあげるために、何かしてあげたいという温かい思いが、春に芽吹く草花のように、ふんわりと、けなげに、伸長してくるのだった。
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