さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第171話

***

 

 

 

 夜が明けた。

 

 大きい風が彼方より迫って来、平原に生える下草を、樹木の葉を、ザワザワと揺らした。

 

 何か物寂しい風情のある日和だった。

 

「どうしましょう――というと、すごく頼りないですけど」

 

 オットーがおずおずと言う。

 

「わたしには、決定権はないですから」

 

「もっともらしい言い訳はよして」、とリーザが、凛然と返す。

 

 オットーは、木陰に座り、リーザは、ちょっと離れたところで、辺り一帯を見晴るかしている風だった。

 

「決定権がないから何も言えないんじゃなくて、何も分からないから、でしょう?」

 

 オットーは怯む。

 

 リーザは呆れてため息する。

 

「ぼくは」、とオットーは口を開く。「事務所の言い付けで村へ来てはみたものの、結局分かったのは、目に見えることだけで、何がどういう事情でどうなったのかという、詳しい状況までは分かりませんでした。そこまで分かれば、ぼくは堂々と城下町へ帰り、相応の報酬を所長に得意顔で要求出来るのでしょうが、実情はこうであって、今帰っても、きっと冷笑を買うだけでしょう」

 

「つまり、あまり城下町へ帰る気になれないってことでしょう?」

 

「どうでしょう」、とオットーは俯いて考える恰好になる。「でも、もうぼくに出来ることは特にない気がします。これ以上求めても、時間の浪費になるだけかと。なら、潔く城下町へ戻って、元の生活に復帰するのが順当です」

 

 リーザは、考えた。

 

 オットーの言も、一理ある気が、彼女にはした。

 

 村が滅びていたことは、確かに驚いたし、父母を含む村民の行方を知りたいし、執事を失った憤りを晴らしたいという思いがありもするけど、詰まる所、じぶんたちの出来る活動には、時間においても、金銭においても、体力においても、限界があり、その限界より先は、ないのである。

 

「手がかりのひとつでもあれば、もう少し粘ろうと思うのですが……」

 

「お金は、どうなの?」

 

 と、リーザは尋ねたが、直後、しゅんとバツが悪そうにそっぽを向いて俯いた。

 

「わたしは、こういう風に、いかにもお嬢様っていう態度なのに、笑っちゃうくらいの小銭しか持ってないの」

 

「お嬢様のお手持ちはお考えにならなくてだいじょうぶですよ」、とオットーは励ますように答える。「ぼくの方も、一応、あるにはあるんですが、あと数日の宿代で底を尽きそうで……」

 

「背に腹はかえられないってやつね」

 

「そうかも知れません」

 

「帰るしかないわ」

 

「そうですね」

 

「帰ろう」

 

 リーザは、馬のもとへ寄り、両手でその口元を撫でた。馬は嬉しそうに、首を伸ばした。

 

 互いによく知り合っているもの同士、リーザと馬は、ねんごろに触れ合った。

 

「幌の荷台がないから」、とリーザが、手を下ろして呟く。「鞍に乗るしかないわね」

 

「すいません」、とオットーは気後れしたように言う。「ぼく、じぶんで乗って帰ってきておいてなんですが、乗馬の経験がなくって……」

 

「あら、そうだったの?」

 

 リーザが意外と思うように返す。

 

「なら、わたしが手綱を持つわ。あなたは――」

 

 彼女は、ちょっとためらう風に言い淀んだが、続けた。

 

「――あなたは、わたしの後ろに乗ればいい」

 

「いっしょに乗せてもらえるんですか?」

 

「馬とひとが併走して帰るだなんて土台無理でしょうしね」

 

「ぼくもそう思います」

 

「ちょっと気味が悪いけど、仕方ないわ」

 

 ――『気味が悪い』。

 

 オットーは何も反応を見せなかったが、そのキツい一言は、打撃のように彼を撃ち、彼は心の内奥で傷付いたのだった。

 

 が、うだつの上がらない、冴えない彼には、すでに何度か、女性との間で繰り返されてきた経験であり、慣れっこというには、苦痛が強かったが、今回も、リーザの何気ないふと口を突いて出たじぶんへの心ない拒絶の言葉を、黙って受忍したのであった。

 

 

 

***

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