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馬を走らせながら、リーザは、やはり二人のことを想っていた。
フリッツとブルーノのことだ。
全身に向かい風を浴びる彼女の髪は盛んになびき、揺れた。
「ねぇ、あなたは、知ってるんでしょう?」
そうポツリと呟かれた彼女の問いは、やかましい風声に紛れて、背後のオットーの耳には届かなかった。
リーザは、快足を飛ばす駿馬のたてがみを見つめた。
確かに、この馬は、コンラートのことも、フリッツとブルーノのことも、知っているに違いなかった。彼らの動向を見た、唯一の目撃者だ。
空が高い。そこかしこに流れる雲が、秋日を受けて煌めいている。
さて、馬も生き物であり、走ればくたびれる。また、ひとも、馬に乗っているだけであれ、姿勢の自由がなく、向かい風の圧力もあり、やはり同様に疲れる。
そういうわけで、二人は精力を使い切って帰り道をいたずらに長くしないよう、適当にその辺の人里に寄って、体力を回復した。
オットーにとっては、窮屈な馬の上を離れられるわけで、目いっぱい羽を伸ばし、リーザは、訪れたことのない村や町の雰囲気に溶け込んで、旅情を味わった。
たとえば、オットーが、その辺でごろ寝して、目覚めて目いっぱい伸びをする時や、たとえばリーザが、市場に並ぶ色とりどりの果物を物色している時、彼らは、ふと、じぶんが没頭していることに気付いてハッとするのだった。
彼らは、今じぶんが帰途におり、近く城下町へと帰り、オットーは、滅びた村のこととその復旧のことを事務所に伝えるのであり、リーザは、叔父夫婦に過日の非礼を詫びて、屋根裏部屋に帰り、学校をどうするか考えるのであり、それぞれ、かりそめの興趣から我に返ると、深刻に今後を見据え、何となく冷然となり、落ち込むのだった。
オットーが通行税を払って街道の陸橋に上り、緩やかにカーブする見晴らしのいいその上を、馬がひた走る。
彼方には、丘陵の上に栄える城下町が、見える。
リーザが、手綱をクイと引っ張り、馬の速度を落とす。
向かい風が弱まり、風切り音が、話し声が聞こえるほどにまで静まる。
「何か、変わったことはあるでしょうか?」
と、オットー。
「さぁ」、とリーザ。「行ってみないと分からないわ。こうして眺める限りじゃ、何も変わっていないようだけど」
「だといいですね」
「城下町は、だいじょうぶよ。ゲールフェルト村は、脆かったけど……」
「村も、いずれ立ち直って、堅固になりますよ。あの騎兵たちがいるのなら、安全です」
「そうね」
そう特に感慨も込めず答えると、リーザは馬を挟む脚を内へと締め、馬を速足にした。
また風切り音がうるさくなり、会話の声は、掻き消えるようになった。
帰るべき場所にもうすぐ到着するというのに、オットーも、リーザも、浮かない顔をしていた。
凶報ばかりで吉報がなく、別れたひとたちに合わせる顔がないからだった。
だが、秩序の中に戻れるということ、つまり、必要である全てのものが揃っている生活へと帰れるというのは、間違いなく、ひとつの安心ではあった。
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