さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

173 / 451
第173話

***

 

 

 

 情報とは、ある意味では知識と同義に近いものであり、知っている方が、知らないより有利となる。

 

 あらゆる思考は知識を前提とし、知識が乏しければ、あまり考えられないし、反対に豊かであれば、よく考えられ、従ってよく行動も出来る。

 

 情報はいつの時代も貪欲に求められ、金銭が対価になることも稀ではなかった。

 

 丘陵に城門を構えるグルンシュロスの城下町にある、飛脚を擁する事務所の所長は、そういう情報を商品としたビジネスを思い付いたことで、今回下っ端のオットーを、出世のチャンスという誘い文句で、異境に遣いにやったのだった。

 

 本人は、きっと厄介払いのためだろうなどと邪推したが、所長に悪気など露もなく、毎日変化のない日々を過ごして低空飛行を続けるまだ若い彼が、あるいは覚醒するかも知れないと期待しての指令だった。

 

 成るほど、オットーは帰ってきた。前と比べて特に変わったところも見られず、相変わらずうだつの上がらない感じが滲み出ていて、所長は拍子抜けしたものだが、彼の持ち帰ってきた情報が肝なのであって、彼が当地で何を見、何を聞いてきたのかが分かりさえすれば、十分だった。その情報が、村と繋がりがあって、村のことを知りたがっている者の需要の埋め合わせになる、その対価として、金銭を請求出来るというわけである。

 

 久しぶりに事務所に顔を出したオットーを、同僚や先輩は、温かく迎え入れた。

 

「大変だったろう。ご苦労様」、と人相のよくない所長がねぎらう。

 

「どうだったかね、向こうでは?」

 

「色々ありました」

 と、オットー。所長の隣には夫人が付いており、彼女もいっしょにオットーの話に真剣に傾聴している。

「村はやっぱり廃墟になっていて、入って調べものをしようとしたのですが、すでにいかがわしい連中があちこち漁って回っていたので、中々思うようには動けませんでした」

 

「そうか」、と所長。「あえて何者かと対決するといった真似をしなくてよかった。そこまで君に要求したわけではないからね」

 

「でも、せっかく遠路はるばる足を運んだ以上、有益なものを持ち帰りたいと思ったので、賊の目を盗んで村へ忍び込んで見て回ったのですが、ガラクタや少ない村民の死体以外は、何も見ませんでした」

 

「行方不明になった村人の行方は?」

 

「分かりません。何の痕跡もありませんでしたから」

 

「何と……」

 

 所長は期待外れの感を否めず、憂色を浮かべ、俯いて顎を指で落ち着きなくもてあそび出した。今のところ話に出たものは全て売り物とするには、その辺の噂話の域を出ず、あまりにも頼りなかった。

 

「あの」

 と、所長の気難しい表情を気遣わしがるように、オットーが言う。

「バルビタールって、ご存知ですか?」

 

「?」

 

 所長は、きょとんとすると、小ばかにしたように笑い、「当たり前だ」、と答えた。

 

「あれほどの大都市を知らない世間知らずはいないというものだ」

 

「そうですね。じぶんで聞いておいてなんですが、ぼくも知っていました」

 

「何を言いたいのかね」

 

「いえ、ゲールフェルト村は、何者かの襲撃を受けて、廃墟となり、賊が住み着くようになっていましたが、ちょうどぼくらが来た頃に、馬に乗った兵たちがやって来て、賊たちを追っ払ってくれたのですが、彼らが、バルビタール出身だったのです」

 

「ふむ、やってきたというのは?」

 

「村はバルビタールが擁する社会集団の単位で、村が滅びた知らせを受けて出動したみたいです」

 

「つまり、復旧作業か何かのためにやってきたと」

 

「はい」

 

「そうか……」

 

「彼らには、復旧作業の手伝いを提案されたのですが、ぼくらにはお金も時間も余裕がなかったので、断念しました。最後まで滞在すれば、あるいは何かもっと詳しいことが分かったのかも知れませんが」

 

「いや、いいんだ。わたしも鬼ではないからね。口頭で頼んだことより以上は望まん。今回は本当にご苦労だった。しばらく、休んでくれていいよ」

 

 

 

 オットーは解放された。まだお昼にもなっていなかった。

 

 ――あの村へ行って、城下町へ帰ってきて、所長と話して、さて、じぶんは何か有意義なことが成せたのだろうか。

 

 彼はとっくり考えたが、残念という風に、首を左右に振った。

 

 ――そういえば

 

 と、彼は思った。

 

 ――リーザは、どうしているだろう。家に帰ったのだろうが、学校は?

 

 今回の旅で、彼女は深く傷付き、疲弊したに違いない。どれだけ気丈でも、堪えただろう。

 

 元気にしているといいが……。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。