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情報とは、ある意味では知識と同義に近いものであり、知っている方が、知らないより有利となる。
あらゆる思考は知識を前提とし、知識が乏しければ、あまり考えられないし、反対に豊かであれば、よく考えられ、従ってよく行動も出来る。
情報はいつの時代も貪欲に求められ、金銭が対価になることも稀ではなかった。
丘陵に城門を構えるグルンシュロスの城下町にある、飛脚を擁する事務所の所長は、そういう情報を商品としたビジネスを思い付いたことで、今回下っ端のオットーを、出世のチャンスという誘い文句で、異境に遣いにやったのだった。
本人は、きっと厄介払いのためだろうなどと邪推したが、所長に悪気など露もなく、毎日変化のない日々を過ごして低空飛行を続けるまだ若い彼が、あるいは覚醒するかも知れないと期待しての指令だった。
成るほど、オットーは帰ってきた。前と比べて特に変わったところも見られず、相変わらずうだつの上がらない感じが滲み出ていて、所長は拍子抜けしたものだが、彼の持ち帰ってきた情報が肝なのであって、彼が当地で何を見、何を聞いてきたのかが分かりさえすれば、十分だった。その情報が、村と繋がりがあって、村のことを知りたがっている者の需要の埋め合わせになる、その対価として、金銭を請求出来るというわけである。
久しぶりに事務所に顔を出したオットーを、同僚や先輩は、温かく迎え入れた。
「大変だったろう。ご苦労様」、と人相のよくない所長がねぎらう。
「どうだったかね、向こうでは?」
「色々ありました」
と、オットー。所長の隣には夫人が付いており、彼女もいっしょにオットーの話に真剣に傾聴している。
「村はやっぱり廃墟になっていて、入って調べものをしようとしたのですが、すでにいかがわしい連中があちこち漁って回っていたので、中々思うようには動けませんでした」
「そうか」、と所長。「あえて何者かと対決するといった真似をしなくてよかった。そこまで君に要求したわけではないからね」
「でも、せっかく遠路はるばる足を運んだ以上、有益なものを持ち帰りたいと思ったので、賊の目を盗んで村へ忍び込んで見て回ったのですが、ガラクタや少ない村民の死体以外は、何も見ませんでした」
「行方不明になった村人の行方は?」
「分かりません。何の痕跡もありませんでしたから」
「何と……」
所長は期待外れの感を否めず、憂色を浮かべ、俯いて顎を指で落ち着きなくもてあそび出した。今のところ話に出たものは全て売り物とするには、その辺の噂話の域を出ず、あまりにも頼りなかった。
「あの」
と、所長の気難しい表情を気遣わしがるように、オットーが言う。
「バルビタールって、ご存知ですか?」
「?」
所長は、きょとんとすると、小ばかにしたように笑い、「当たり前だ」、と答えた。
「あれほどの大都市を知らない世間知らずはいないというものだ」
「そうですね。じぶんで聞いておいてなんですが、ぼくも知っていました」
「何を言いたいのかね」
「いえ、ゲールフェルト村は、何者かの襲撃を受けて、廃墟となり、賊が住み着くようになっていましたが、ちょうどぼくらが来た頃に、馬に乗った兵たちがやって来て、賊たちを追っ払ってくれたのですが、彼らが、バルビタール出身だったのです」
「ふむ、やってきたというのは?」
「村はバルビタールが擁する社会集団の単位で、村が滅びた知らせを受けて出動したみたいです」
「つまり、復旧作業か何かのためにやってきたと」
「はい」
「そうか……」
「彼らには、復旧作業の手伝いを提案されたのですが、ぼくらにはお金も時間も余裕がなかったので、断念しました。最後まで滞在すれば、あるいは何かもっと詳しいことが分かったのかも知れませんが」
「いや、いいんだ。わたしも鬼ではないからね。口頭で頼んだことより以上は望まん。今回は本当にご苦労だった。しばらく、休んでくれていいよ」
オットーは解放された。まだお昼にもなっていなかった。
――あの村へ行って、城下町へ帰ってきて、所長と話して、さて、じぶんは何か有意義なことが成せたのだろうか。
彼はとっくり考えたが、残念という風に、首を左右に振った。
――そういえば
と、彼は思った。
――リーザは、どうしているだろう。家に帰ったのだろうが、学校は?
今回の旅で、彼女は深く傷付き、疲弊したに違いない。どれだけ気丈でも、堪えただろう。
元気にしているといいが……。
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