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目を開けると、天井が見えた。屋根裏部屋の、低い天井だった。
朝だった。
少し冷たい空気。雨の中、城下町を散歩した記憶がぼんやりと浮かぶ。
リーザは帰宅する時、伯父夫婦の家の正面に来て、ひどく懐かしい、安らいだ気分になったが、その直後、逡巡に襲われた。
半ば訣別する形で、リーザは、彼らと別れたのだ。
お互いに、ちょっとした口論となり、彼女は、保護者たちの同意を得、円満に旅立てるための努力は、あまりしたとは言えず、むしろ怠って、焦りを帯びたみずからの欲求を満たすために、いわば家出したのだった。
伯父夫婦がどう思っているのか、リーザはあまりいい推測が出来なかったが、かといって、じぶんのした選択が誤りだったとは思えなかった。
結局、彼女は、郷里の状況とそこに住まう肉親や近しい人々の安否が、矢も楯もたまらず知りたいという気持ちに駆られ、暴走気味に、強行に走ってしまったのだった。
もう、家出など続けられなかった。
リーザがとりあえず成すべきことは、じぶんが以前送っていた生活に立ち戻ることであり、要するに復帰であった。ほどけた結び目を結び直し、社会の秩序の中へと、参入するのだった。
リーザは寝床を離れると、部屋を出、階段を下りていった。
「おはよう」
伯母がニコリと挨拶する。
「おはよう」
と、返すリーザはもう一人の姿をキョロキョロ探す。
「叔父さんは?」
「畑に出ているわ。野焼きでもしてるんじゃないかしら」
「そう」
「ゆうべはよく寝られた?」
「うん。疲れてたから、あっという間に寝ちゃってたわ」
「まだ、寝てたっていいんだよ? 色々あったと思うわ。一晩寝ただけでは足りないでしょう」
「どうだろう。よく分かんない」
話しながら、リーザがぼんやりした表情をしているのをじっと見ている伯母は、話が終わると、もう一度ベッドで横になるよう、勧めた。
リーザも、当面においては、特にやることもなく、また、叔母の勧め方に幾ばくかの押しつけがましい感じを覚えたので、心の奥で面倒くさくなり、従うことにした。かといって、二度寝することに対して、特別、拒否感があるというわけでもなかった。
むしろ、疲労は残っているだろうし、今度の旅で得た情報も印象も、全て雑然と散乱していて、収拾が付かないという具合なので、横になってじっくりと物思いに耽るというのも、満更、悪いことではないかも知れない、と彼女は思った。
屋根裏部屋に戻り、部屋の扉を後ろ手にパタンと閉め、背中を扉にくっつけて、俯いてフゥとため息する。
天井の低い屋根裏部屋。じぶんがいない間も、ちょくちょく伯父か伯母が掃除してくれていたらしく、あまり埃のたまっていない、さっぱりした部屋。
こまやかなその気遣いが、無性にありがたく思えて、リーザはちょっと目が潤むのだった。
引き抜いた根を再び土壌に戻しても、結局萎えて枯死してしまう植物があれば、健気に復活する植物もある。
生命力の強弱が、生存と死滅を分けるのだ。
リーザに強い生命力があれば、また元気に暮らせるようになる。
彼女一人では脆弱でも、今は、世話を見てくれる保護者がいる。支えがある。
悲しみと感謝の入り混じった気持ちが、彼女の目頭を、温かくしていた。
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