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初めての登校日は、やはりリーザにとっても、思い出深いものとなった。
伝わっている名前の教室へと足を運び、入室すると、ずらりと座席の並ぶ教室に集まる生徒の多くが、彼女をチラリと見た。
彼らは一瞬きょとんとし、いったい誰だろうといぶかるのだが、やがて新入りに違いないと推断すると、元の方に向き直るのだった。
その後教員が現れて教壇に立ち、点呼があり、挨拶があり、授業が始まった。
いかめしい、厳しい雰囲気で、教室はすぐにピリッとした空気になった。
成るほど。教本の途中から確かに始まっているが、リーザにとっては既知のものばかりで、中途での入学ゆえの不利といえど、そう大した不利ではないようだった。
やがて昼になり、昼食を食べ、休憩があり、午後の授業が始まり、そして夕、終了した。
その日は軽く口を利いた者は数人いたものの、友達になるまでではなかった。
伯父の家へ帰ると、伯父夫婦がにこやかに学校のことをリーザに尋ねた。
リーザは特別変わったことはなかった、と、すげなく答えた。勉強は簡単で、遅れたところから追いかけるのはたやすかったと嫌味もなく言い、友達はまだいないとやや寂しそうに言った。
「ねぇ、伯父さん」、とリーザが話題を転じるように呼び掛ける。
「何だい」、と伯父はにこやかに答える。
「今朝兵隊さんの行列を見たんだけど、あれは何? 前はなかったと思うんだけど」
「あぁ」、と彼はいかにも通暁している風に返す。「彼らは、新しくこの城下町に駐屯することになった兵たちだよ」
「新しく?」
「そうだ。バルビタールからやって来た兵たちなんだ」
「バルビタールっていうと、おっきな国よね。わたし、名前だけは知ってるけど」
「何でも、王命らしいんだ」
「そう」、とリーザは、あまり固執するでもなく納得して言う。「別に、悪者じゃないからいいんだけど、通学路でパレードをやられたらちょっと迷惑ね。通れないもの」
「あぁ、そうだね」、と伯父は、どこか気遣わしそうな面持ちで、空々しく答える。「でも、仕方ないんだ。彼らはぼくらを守ってくれる頼もしい味方だから、無碍には出来ないんだ」
「周りには子供がいて、だいたいすっかりビクビクした感じだったし、その他のひとだって、兵たちに敬愛の眼差しを向けるというよりは、何か気後れした感じだったわ」
「……」
伯父は押し黙り、物思う風に俯く。
リーザは、彼が沈黙するに任せ、じぶんはじぶんで考えてみた。
――大抵の場合、軍人や兵士の存在が目立つようになるというのは、物騒な時と決まっているものだ。
だが、町は平和だし、戒厳令などまるで出ていない。商売は平常通りだし、お店に行けば、パンでもフルーツでも、衣服でも、ナイフでも、買い求めることが出来る。
ただ、黒光りする鎧をまとう兵士の姿が、悪目立ちするようになったということだけが、以前からの瞭然たる変化だった。
特に生活する上で、不都合があるわけではない。しばしば通りを行進して人流を遮ることがあるだけ、他はないのだった。
確かに、不都合はなかった。
だが、リーザには、暗々裏に蠢く何者かの存在を、ほのかに感知するのだった。
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