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城下町を黒雲が覆った。しかし、災いの象徴ではなかった。冷たい地域より季節の風に乗ってやって来たのだった。
初雪が降った。
毛皮のコートが防寒によいからと人々は盛んに着用した。毛皮のコートには種類があり、上流階級であれば誰でも一張羅として持っているが、下流だからといって手に入らないということはなく、質的には劣るが、ちゃんとしたコートを買い求めることが出来た。
一日が過ぎ、一週間が過ぎ、一カ月が過ぎた。
季節は移ろい、リーザも、登下校に伯父に買ってもらった上等の毛皮のコートを纏うようになった。コートがなければ、寒いし、何より学校ですかんぴんなどと嘲りが飛んでくるので、ぜひとも必要なのであった。
前に縁のあったオットーとは、同じ町の住民なので、時々すれ違ったりして顔を合わせるものの、何となくお互いに気遣わしがるように避けていた。
最後に会って話したのは、村から帰還して、その一週間後だった。
お互いに相手の状況を確かめるために約束して会ったのだが、会談は、特には有益ではなく、雑談の域を出ないものだった。リーザは学校に通うようになったことを話し、オットーは普段の仕事生活に戻ったことを話した。村に関する新しい情報などあるはずもなく、二人はそれぞれ、何のためにじぶんたちが知り合い、交流しているのか、よく分からなかった。
昇降口で衣服に付着した雪をサッと手で拭い取ると、大勢いてガヤガヤしている学校の教室へ行き、座りたい席を探した。
アリサがすでに来ていて、リーザは彼女のそばまで行って隣に座り、互いに朝の挨拶を交わした。
「寒いね」、とアリサ。
「そうね」、とリーザ。
「ねぇ、リーザって、どこに住んでるの?」
「わたしは、畑がある丘の斜面の家に住んでる。ホームステイなんだ」
「そうなんだ。じゃ、親は別のところにいるのね」
「うん……」
リーザの顔に暗い影が差した。父母の話題は、今、行方不明となっていない彼女にとっては、とても億劫だったのである。
「アリサは?」、とリーザは訊く。沈黙が長引くことで、出来れば話したくない話題へと話が進行するのを防ぎたかったのである。
「わたし、花屋の娘なの」
「へぇ。いいじゃない。ということは、お家にはお花がいっぱいあるんでしょ?」
「まぁね。でも、見慣れれば何でもないわ」
「ご両親といっしょなの?」
「うん。後、妹がいるの。わたしは学校に行くことにしたけど、妹は、もうお店の看板娘として働いているわ」
「ふうん」
――将来のことが、アリサの妹の話から連想され、じぶんより早く進むべき道を決めたという彼女に、顔も見たこともないのに、微かに劣等感を抱いた。
「頭がよくないから、勉強は嫌だって言って、早々と学問は断念したみたい」
「そう。まぁ、あんまり不出来だと、この学校じゃ……ね?」
「うん。先生、みんな厳しいもの」
リーザとアリサは苦笑し合った。
そして満足して話をやめ、正面に向き直ると、何もせず、授業の始まりを待った。
――両親のことは、リーザには、未だに気がかりだし、コンラートのことを思い出すと、今でもまざまざとその死相を見るようだし、恐怖や怨恨で身の毛がよだつようだった。
だが、徐々にその状況に、慣れていってしまっているじぶんの存在に、リーザはふと気が付いて、そういうじぶんがとても非情に思われて、むなしい気分になるのだった。
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