***
雑踏を前に、店番がてら、エルマは図鑑のページをパラパラとめくっていった。
店に用意してある種類の草花に関しては、花屋で働く者として相応しい程度には、通暁しており、その名前、花期、特徴をそらんじることが出来た。
その間に、ポツポツと客の来店があり、ある人は、ちょっと喉の具合が悪いからと、干した薬草を求め、またある人は、意中の人に贈りたいからと、花束を求めた。
エルマにとって、一種だけの購買は分かりよく、簡単に対応出来るのだが、花束を求められる時がいちばんやりにくく、いつも悩むのだった。
花束を求められる場合の多くは、そのイメージが漠然としており、何種類か店側で選ばないといけないのだが、組み合わせが難しく、エルマは毎度何か足りなかったり、逆に多種を選び過ぎたりするのだった。母はすっかり慣れた感じでサッと選び、サッとブーケにまとめるのに、エルマの場合は、特別クレームなどがあるわけではないが、どうにも拙く、当人が全然満足出来ないのであった。センスがないのかも知れない、などと落ち込むことも、たまにあった。
図鑑には、花束のことは書いておらず、花屋の仕事をすっかり習熟するには、書物を読み込む以外のアプローチも必要のようであった。
エルマはその後も店番を続けた。ヒマになれば図鑑を読み、来客があれば応対し、売れた分は、在庫があればまた店先に出し、なければ記憶しておいて、母に伝え、畑より持ってきてもらうなり、新たに畑で育ててもらうなりするよう、取り計らうのであった。
エルマはふと、空を見上げた。もう夕へ、夜へと向かう寂しい表情の青空だった。
ずっと、店にいて働いている。この城下町は確かに鄙びてはおらず、そこかしこに娯楽があるけれど、何か心慰むものが欠けていて、エルマにとっては、何とはなしに、物足りず、つまらないのだった。
ふと、誰か近付いて来、エルマはビクッと驚いてしまった。
「ただいま」
と挨拶するのは、彼女の姉の、アリサだった。学校から帰ってきたようだ。
「何だ。お姉ちゃんか」
エルマは安堵したようにハァとため息する。
「どうしたっていうのよ。やけにビクついたりして。わたしに対して後ろめたいことでもあるの?」
アリサは首を伸ばし、妹の目を覗き込むようにして尋ねる。
「ないよ、全然」、とエルマは、首を振って否定する。「ちょっと、上の空で、ビックリしただけ」
「ふうん」、と首をもとに戻し、エルマは納得したように発する。「その様子だと、今日はあんまり繁盛しなかったみたいね」
「まぁね。どっちかっていうと、ヒマだった」
「アンタ、ちゃんとお客さん、呼び込んだりしてたの? あんまりヒマじゃ、わたしたちのご飯が危うくなるんだから」
「ハイハイ。分かってるよ」
「ところで、お父さんとお母さんは?」
「二人とも、畑。もう暗くなるから、そろそろ帰ってくると思うけど」
「そう」
会話が終わり、アリサは店の奥へ行き、エルマは、ちょっとずつ店じまいしていこうと、辺りを片付けだした。
夕日が投げる光が、丘陵にそびえる城下町の城と、丘陵の頂上付近の岩肌に照り付け、とても鮮やかだった。
やがて秋が終わり、冬が来、丘陵に、城に、町の家々に、雪が積もるのだ。
エルマは、しまおうとして、ハーブの鉢を取り、そのスッとする芳香を吸い込む。
体中を、清爽な息吹が通り抜ける。
***