さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第183話

***

 

 

 

 雑踏を前に、店番がてら、エルマは図鑑のページをパラパラとめくっていった。

 

 店に用意してある種類の草花に関しては、花屋で働く者として相応しい程度には、通暁しており、その名前、花期、特徴をそらんじることが出来た。

 

 その間に、ポツポツと客の来店があり、ある人は、ちょっと喉の具合が悪いからと、干した薬草を求め、またある人は、意中の人に贈りたいからと、花束を求めた。

 

 エルマにとって、一種だけの購買は分かりよく、簡単に対応出来るのだが、花束を求められる時がいちばんやりにくく、いつも悩むのだった。

 

 花束を求められる場合の多くは、そのイメージが漠然としており、何種類か店側で選ばないといけないのだが、組み合わせが難しく、エルマは毎度何か足りなかったり、逆に多種を選び過ぎたりするのだった。母はすっかり慣れた感じでサッと選び、サッとブーケにまとめるのに、エルマの場合は、特別クレームなどがあるわけではないが、どうにも拙く、当人が全然満足出来ないのであった。センスがないのかも知れない、などと落ち込むことも、たまにあった。

 

 図鑑には、花束のことは書いておらず、花屋の仕事をすっかり習熟するには、書物を読み込む以外のアプローチも必要のようであった。

 

 エルマはその後も店番を続けた。ヒマになれば図鑑を読み、来客があれば応対し、売れた分は、在庫があればまた店先に出し、なければ記憶しておいて、母に伝え、畑より持ってきてもらうなり、新たに畑で育ててもらうなりするよう、取り計らうのであった。

 

 エルマはふと、空を見上げた。もう夕へ、夜へと向かう寂しい表情の青空だった。

 

 ずっと、店にいて働いている。この城下町は確かに鄙びてはおらず、そこかしこに娯楽があるけれど、何か心慰むものが欠けていて、エルマにとっては、何とはなしに、物足りず、つまらないのだった。

 

 ふと、誰か近付いて来、エルマはビクッと驚いてしまった。

 

「ただいま」

 

 と挨拶するのは、彼女の姉の、アリサだった。学校から帰ってきたようだ。

 

「何だ。お姉ちゃんか」

 

 エルマは安堵したようにハァとため息する。

 

「どうしたっていうのよ。やけにビクついたりして。わたしに対して後ろめたいことでもあるの?」

 

 アリサは首を伸ばし、妹の目を覗き込むようにして尋ねる。

 

「ないよ、全然」、とエルマは、首を振って否定する。「ちょっと、上の空で、ビックリしただけ」

 

「ふうん」、と首をもとに戻し、エルマは納得したように発する。「その様子だと、今日はあんまり繁盛しなかったみたいね」

 

「まぁね。どっちかっていうと、ヒマだった」

 

「アンタ、ちゃんとお客さん、呼び込んだりしてたの? あんまりヒマじゃ、わたしたちのご飯が危うくなるんだから」

 

「ハイハイ。分かってるよ」

 

「ところで、お父さんとお母さんは?」

 

「二人とも、畑。もう暗くなるから、そろそろ帰ってくると思うけど」

 

「そう」

 

 会話が終わり、アリサは店の奥へ行き、エルマは、ちょっとずつ店じまいしていこうと、辺りを片付けだした。

 

 夕日が投げる光が、丘陵にそびえる城下町の城と、丘陵の頂上付近の岩肌に照り付け、とても鮮やかだった。

 

 やがて秋が終わり、冬が来、丘陵に、城に、町の家々に、雪が積もるのだ。

 

 エルマは、しまおうとして、ハーブの鉢を取り、そのスッとする芳香を吸い込む。

 

 体中を、清爽な息吹が通り抜ける。

 

 

 

***

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