さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第184話

***

 

 

 

 姉のアリサが、ある日の夕、ある女学生を花屋へと連れて帰ってきた。

 

 日頃接客しているだけあって、人見知りとは無縁なエルマは、ちょうど仕事がヒマだったこともあって、快く応じた。

 

 容貌に関して、その女学生は、姉妹と比べると、髪の色がどちらとも褐色というところで共通しているが、彼女の方がずっと濃く、逆に、姉妹の髪の褐色は、薄いのだった。

 

 リーザという名でアリサとは友人だと、アリサより簡便に紹介を受けると、リーザは品よく頭を下げ、だけどどこか不遜な感じを与えるかたい面持ちで、よろしくと挨拶するのだった。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」、とエルマも挨拶を返す。「妹のエルマと言いまして、この花屋で働いています。といっても、その実は経営者である父母のサポートに過ぎないんですけど」

 

「ううん」、とリーザは首を振る。「わたしより若いのにもう働きに出てるなんて偉いと思うわ」

 

「ちょっとリーザ。そう言うとわたしのメンツが立たないんだけど」

 

 アリサが不服そうに言葉を挟む。

 

「アリサは、目標があって、そのために学校に通ってるんでしょう?」

 

「まぁね」

 

「なら、胸を張ってればいいじゃない。妹が働いていて、じぶんは働いていないからって、気落ちする必要なんてないと思うわ。だって、わたしからすれば、お店であれやこれやするのも、学校に行って勉強するのも、どちらも働くことに違いないもの」

 

「別に気落ちしたわけじゃ……」

 

 口籠るアリサを見、リーザとエルマは揃って微笑み合った。彼女らは、意気が合うようだった。

 

「何? アンタたち、もう仲良しになったの?」

 

 と、アリサは二人の反応を見、ちょっと機嫌を損ねたみたいになると、プイとそっぽを向いて、店の奥へと消えてしまった。

 

 リーザとエルマは、共々その後ろ姿を、静かに見送った。

 

「あら、ちょっとからかい方が悪かったかしら?」

 

 と、リーザ。

 

「だいじょうぶですよ。お姉ちゃんはそこまで繊細じゃないですから」

 

「そう。なら安心ね」

 

「リーザさん」

 

 と、エルマが呼びかける。

 

 リーザは彼女に顔を向ける。

 

「もう夕方になりますけど……」

 

「そうね。もう帰ることにするわ。ちょっと寄っていかないかって、アリサに誘われたの」

 

「また来てください」

 

 と、エルマが見送ろうとすると、リーザはふと何か思い出したようにハッとし、「あぁ」、と発した。

 

「今日は、はじめましての印に、何か買っていくわ」

 

「本当ですか?」

 

「まぁ、あんまり高いものは買えないけど」

 

「別に、何でもいいですよ。むしろそこまでお気遣いくださらなくてもいいのに」

 

「ううん。せっかくだから――」

 

 リーザは、しばらく目を泳がせて花屋の品々を物色すると、ひとつの鉢植えに目を付け、指差して、「あれがいいかも」、と言った。

 

 エルマはその指が差す、バラが多種かたまって並んでいる方へと歩みより、「こちらですか」、と持ち上げてみせた。

 

「うん。そう」

 

 その鉢に植わっているのは、花なのだが、中央から、一枚一枚と、花弁が分かれているその外縁にかけて、オレンジ色から、淡いピンクへのグラデーションがとても鮮やかな、バラだった。

 

「綺麗ね」、とリーザは、小振りの鉢のその小さな、だけどそれゆえに可憐であるその、花の女王と言われるバラを、愛でた。

 

「わたしもそう思います。いいものをお選びになりました」

 

 バラはリーザの手に渡り、彼女は満足し、「ありがとう。また来るわ」、と言って、立ち去ろうとした。

 

「お姉さんによろしく伝えといて」

 

「はい。またいらしてください」

 

 リーザは帰り、エルマは頭を下げ、見送った。

 

 空が薄暗くなっていた。晩秋の日脚は短いのだった。

 

 エルマは店じまいを始め、機嫌を損ねたはずのアリサも、ケロッとして彼女を手伝った。

 

 エルマは後で、リーザの伝言を姉に伝えた。

 

 アリサは、すんなりと納得し、「あぁ、疲れたなぁ」、などと、腰を拳でコンコンと小突きながら、ぼやくのだった。

 

 

 

***

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