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姉のアリサが、ある日の夕、ある女学生を花屋へと連れて帰ってきた。
日頃接客しているだけあって、人見知りとは無縁なエルマは、ちょうど仕事がヒマだったこともあって、快く応じた。
容貌に関して、その女学生は、姉妹と比べると、髪の色がどちらとも褐色というところで共通しているが、彼女の方がずっと濃く、逆に、姉妹の髪の褐色は、薄いのだった。
リーザという名でアリサとは友人だと、アリサより簡便に紹介を受けると、リーザは品よく頭を下げ、だけどどこか不遜な感じを与えるかたい面持ちで、よろしくと挨拶するのだった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」、とエルマも挨拶を返す。「妹のエルマと言いまして、この花屋で働いています。といっても、その実は経営者である父母のサポートに過ぎないんですけど」
「ううん」、とリーザは首を振る。「わたしより若いのにもう働きに出てるなんて偉いと思うわ」
「ちょっとリーザ。そう言うとわたしのメンツが立たないんだけど」
アリサが不服そうに言葉を挟む。
「アリサは、目標があって、そのために学校に通ってるんでしょう?」
「まぁね」
「なら、胸を張ってればいいじゃない。妹が働いていて、じぶんは働いていないからって、気落ちする必要なんてないと思うわ。だって、わたしからすれば、お店であれやこれやするのも、学校に行って勉強するのも、どちらも働くことに違いないもの」
「別に気落ちしたわけじゃ……」
口籠るアリサを見、リーザとエルマは揃って微笑み合った。彼女らは、意気が合うようだった。
「何? アンタたち、もう仲良しになったの?」
と、アリサは二人の反応を見、ちょっと機嫌を損ねたみたいになると、プイとそっぽを向いて、店の奥へと消えてしまった。
リーザとエルマは、共々その後ろ姿を、静かに見送った。
「あら、ちょっとからかい方が悪かったかしら?」
と、リーザ。
「だいじょうぶですよ。お姉ちゃんはそこまで繊細じゃないですから」
「そう。なら安心ね」
「リーザさん」
と、エルマが呼びかける。
リーザは彼女に顔を向ける。
「もう夕方になりますけど……」
「そうね。もう帰ることにするわ。ちょっと寄っていかないかって、アリサに誘われたの」
「また来てください」
と、エルマが見送ろうとすると、リーザはふと何か思い出したようにハッとし、「あぁ」、と発した。
「今日は、はじめましての印に、何か買っていくわ」
「本当ですか?」
「まぁ、あんまり高いものは買えないけど」
「別に、何でもいいですよ。むしろそこまでお気遣いくださらなくてもいいのに」
「ううん。せっかくだから――」
リーザは、しばらく目を泳がせて花屋の品々を物色すると、ひとつの鉢植えに目を付け、指差して、「あれがいいかも」、と言った。
エルマはその指が差す、バラが多種かたまって並んでいる方へと歩みより、「こちらですか」、と持ち上げてみせた。
「うん。そう」
その鉢に植わっているのは、花なのだが、中央から、一枚一枚と、花弁が分かれているその外縁にかけて、オレンジ色から、淡いピンクへのグラデーションがとても鮮やかな、バラだった。
「綺麗ね」、とリーザは、小振りの鉢のその小さな、だけどそれゆえに可憐であるその、花の女王と言われるバラを、愛でた。
「わたしもそう思います。いいものをお選びになりました」
バラはリーザの手に渡り、彼女は満足し、「ありがとう。また来るわ」、と言って、立ち去ろうとした。
「お姉さんによろしく伝えといて」
「はい。またいらしてください」
リーザは帰り、エルマは頭を下げ、見送った。
空が薄暗くなっていた。晩秋の日脚は短いのだった。
エルマは店じまいを始め、機嫌を損ねたはずのアリサも、ケロッとして彼女を手伝った。
エルマは後で、リーザの伝言を姉に伝えた。
アリサは、すんなりと納得し、「あぁ、疲れたなぁ」、などと、腰を拳でコンコンと小突きながら、ぼやくのだった。
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