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検閲の義務化以降、通信や写本などの業務において、引き続き取り扱えるものとしては、城下町の内政、及び宗教に一切触れられていないものに限られるようになった。
すなわち、政治への批判や、政治に関する議論、進行のためのものを除く神学は全て事実上、禁止されることとなった。
外部との交わりも、友好関係にあるところに限定され、政治上では敵対関係にあっても、血縁があったり、遍歴職人同士という繋がりがあったりして、互いに持続的なやり取りがある関係にあるひとたちは、相手のことを知る術を断たれ、疎遠にならざるを得なくなった。
そういう一方的な圧政に対しては、やはり憤懣が生じるのが普通であるが、結社も集会も、治安を乱すおそれから、組織することが許されていないため、個々人の中に、それぞれ抑圧され、燻ることを余儀なくされた。
秘密裡に何かしようと企もうとも、そこかしこで巡回している警備の兵の目が光っているので、おとなしくしているのが、賢明であった。
とにかく城政、官僚、神職に従っていれば、全て安泰なのだった。
従順に暮らしていれば、町も周縁も有事がなく平和で、夜ゆっくりと寝ることが出来、肉も魚もパンもお菓子も食することが出来、余計な話さえしなければ、お酒を鯨飲することも許された。
ある日の午前、オットーは、いつもの検閲の後、許可が下りなかったものを事務所に持ち帰ろうとしたのだが、その途中、晴れやかな器楽の音がすると思って、振り向くと、遠くの方から鎧を纏った兵の行進が目に入った。
またか、と彼はうんざり思ったが、どうしようもないので、道の端に寄り、しばらく突っ立って待つことにした。
オットーは、てっきりいつものパレードだと始め思ったのだが、どうも様子が違い、いつもよりも多種の兵士がいた。剣を持つ者に、槍を持つ者に、石弓を持つ者に、乗馬している騎兵に、部隊の所在を示す旗持ちに、愉快な音色を奏でる軍楽隊……、どうやら戦地に赴くらしく見えた。
薄曇りの日で、吹く風は、乾いており、またひんやりとしていた。
また戦争だ、と辺りにいる住民は声をひそめてささやき合い、感謝や尊敬のこもった目ではなく、うさんくさいと思う不審の目で、兵の行進を眺めた。
彼らは城下町の平和を守る者ではないのだ。ただ外部に進出し、攻略する、戦争の仕掛け人なのだ。
別に、身の回りで悪いことが起こっているわけではない。晴天には、照る日は思う様輝き、花は煌めき、水は澄む。政治はやや高圧的で非情だが、商売は、検閲の上で許され、食料が配給制になるなどの事態にはなっていない。友達と遊ぶこともケンカすることも出来、恋人とキスすることも出来る。
だが、この支配された生活に満足しているかと言われれば、オットーにしてみれば、否であり、首を横に振らざるを得なかった。
他のひとたちはどうなのだろう。事務所の所長は、夫人は、同僚たちは、リーザは、父母は――?
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