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ようやく山を下り、麓の鬱蒼とした落ち葉の多い木立を抜けると、出たのは緩い坂道だった。
坂道は少し下ったところで平地へと続き、その向こうは、見渡す限り、浅い下草の生えた平野だった。
日が照っていたが、もう傾いており、夕は近かった。
「さて」
と、先頭のリフレが、立ち止まって呟く。
「とりあえず、山を下りました」
彼は、振り返り、体の具合を尋ねる。
「まだ、大丈夫」、と、実際はもう足が棒になっているだろうミアが、やはり強がって言う。
ぼくは、だが、同情などせず、彼女の意気を尊重し、同じように、問題のないことを告げた。
リフレは小さく頷くと、再び進み始めた。
だが、日脚が短く、時間という観点からも、ぼくらの余力という観点からも、そう長くは旅を続けられなかった。
今、歩いているのは、たとえば水場が近くにあるとか、目立たないとか、そういうキャンプに適したところを探すためだった。
もうゆっくりしたいという気持ちを押し殺し、くたびれた体に鞭打ってしばらく行くと、こんもりと土地が盛り上がったところがあり、その裏が、池となっていた。
牛車に、キャンプの用意が揃っており、適地を見つけたぼくらは、手分けして、設営すればよかった。
ミア以外は、勝手が分かっており、着々と、ポールを立て、石で杭を土に打ち込んだ。ミアはミアで、水汲みを担ってくれ、ぼくと、リフレと、ミアは、それぞれ、等しく役割を担い、そして果たした。
夜が訪れた。空には月が上がり、その夜は、半月だった。
空気が冷たく、ぼくらは皆、焚火に対して、かなり近く、誰もが、ちょっと火傷するくらいだった。しかし、熱いと怯んだ様子を見せると、周りは、何となく微笑んでしまうのだった。そうして、雰囲気は和やかだった。
火の粉がふわりと上がる。星々の群れに向かっていくように、舞い上がっていく。
――村を出ることを決めた時だが、コンラートさん、そしてパン屋のメルさんが、ずいぶん反対して、納得してもらうのに、かなり苦労したものだ。
決して子供だけで旅に出るのではない、リフレといっしょに行く、と説明しても、結局、彼らにとって、ぼくとミアに関して強く懸念していたのは、ただ旅するためだけに旅に出るのではないという、その目的のため――つまり、『教団』と敵対しようとする意志なのだった。
危険極まりないと、彼らは言って、引き留めようと、骨を折ってくれた。村にいれば、安全だ。食べ物も飲み物もある。規則正しい仕事のある生活が送れる。なのに、わざわざみずからを危地へと運ぶ意味などない、と、彼らはとうとうと説得のために話した。
ミアは、あるいは、彼らの思いに共鳴していたかも知れない。だから、ミアは、あの村に留まってもよかったのだ。ぼくは、決して、彼女を危難に晒したくはないし、彼女の思いを軽んじたくもない。
だが、ミアは、ぼくがそうすると決めたことに従うと言ってくれ、ぼくは、そして、頑なに、ブルーノがいなくても、旅に戻ると意地を張り、ぼくらの世話を進んで見ようとしてくれた親切な大人たちと対決し、物別れになることになった。
だが、そういうどちらも譲らない、頑固な話し合いにも関わらず、決してぼくらとコンラートさんたちは、不和に終わったわけではなかった。確かに、コンラートさんも、メルさんも、ぼくの意志の強さというか、頑迷さに、呆れたようだったが、最終的には納得し、ぼくの思いを尊重してくれた。
彼らはねんごろに見送ってくれたし、困ったことがあればすぐに戻ってきてよいと言ってくれ、ぼくは、ちょっと涙ぐんでしまった。
――こんなにまで優しいひとたちのもとを、本心ではそばにいたいのに、去ることを余儀なくされるほど、ぼくという人間をその中に抱く運命は、峻厳で、悲壮だった。
火元で膝を抱いて小さく座っているミアに目をやると、彼女は寒さに縮こまって、舟を漕ぎ出していた。うつらうつらと、首をふらふらさせて、眠りたそうだった。
ぼくは彼女をテントへと促し、彼女はおやすみと挨拶を残して消えた。
とても、寒い、初冬の夜だった。
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