***
いよいよその時になった。
母の葬儀をするのだった。
神父ヨハネスさんがぼくの村へはるばる訪れてくれた。
「はじめまして」
おもむろに手を差し出された。ごつごつした、だけど親しみのこもった手付きだった。
「フリッツといいます。今日はわざわざ来てくださって、ありがとうございます」
ぼくはその手を取り、ねんごろに握手を交わし、深々と礼を述べた。ブルーノさんも、ぼくと調子を合わせて、ぼくの後に礼を言った。
真っ黒な祭服に身を包んだヨハネスさんは、白髪が多く、お年寄りというほどではないけれど、それなりに高齢に見えた。
ぼくの家を訪れたのだった。家にはブルーノさんがおり、ぼくと一緒に、ヨハネスさんの訪問を待っていた。
「おぉ、そちらにお休みになっているのが、君のお母さんだね」
握手の後、ヨハネスさんは憐れみのこもった眼差しで、何とも憂わしそうにぼくの母の遺体のあるベッドに近付いていくと、その手を取り、胸の上で、祈るように組んだ。そして祭服のポケットより小さな書物を取り出し、お腹の上にそっと置いた。表紙の字を窺うと、どうやら聖書のようだった。
「では、棺を」
ヨハネスさんは、そう号令すると、彼に伴われた助祭のひとたちが、力を合わせて木の棺を運び込んできて、ベッドのそばに置いた。
「主よ」、とヨハネスさんは神妙に目を瞑り、厳かに唱えた。「あなたのみもとに旅立った、彼、フリッツの母君の麗しき魂を、どうか安らかに眠らせ、永遠の楽園へとお導きください」
その後、聖歌が歌われた。曲も歌詞も知らないのは、ぼくだけで、母への哀悼の意だけは確かにあったが、その疎外感に、いたたまれない気持ちになった。
「では」、とヨハネスさんは言った。「簡易な式で申し訳ないが、これで、おしまいにさせてもらうよ。いいかい?」
ぼくは否定する気などさらさらなく、首を縦に振った。
ぼくは、助祭のひとたちと、ブルーノさんと協力し、母を丁寧に持ち上げ、棺の中へと納めた。
棺の中で、母は少しくたびれたようだった。病的に色白で、これこそが死相だと思い知るようだった。
その面差しに、ぼくは込み上げてくるものがあり、寂しさと切なさに、また泣きそうになった。その激情をぐっとこらえたが、こらえ切れない分は、細い涙となって、片目より静かに流れた。
持ってきてもらった花々を棺に入れ、白いガウンで追おうと、棺に蓋をし、運びだした。
村の墓地があった。春の草花が脚をくすぐるように生えて風になびいているところに、墓が並んでいる。なだらかな傾斜になっていて、そこに、棺を埋め、その上に土を盛った。
「墓碑も、後日きちんと建ててあげましょう」
風が吹いた。カラッとした、爽やかな風だった。
盛り土の上には、白木の小さな十字架が置かれ、数種類のそれぞれ色の違うキクの花が、活けられた。
――おやすみなさい。
活けられていく花々を見つめて、心の中で、ぼくはそう唱えた。