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辺りは静寂だった。
夜はすっかり更け、ぼくらは、運よくと言うべきか、たまたまキャンプに適したところを発見し、早急にキャンプを設営し、食べるものを食べ、早々と寝床に入った。
疲れがたまっている体を、早い時間に寝付くことで、回復するのが、好適だった。
ところが、リフレとミアがすやすやと寝息を立てるそばで、ぼくは中々寝付かれずに、変に冴えた目を、ぼんやりと、闇に注いでいた。無暗に寝返りを打つと、どっちを向いているのか、たまにわからなくなるくらいには、真っ暗だった。
そういう時に似つかわしく、ぼくの頭の中は、ぐるぐると色々な物事が巡り、過去の事象が蘇ることがあれば、未来への想像が浮かぶこともあるのだった。
――村を離れる前、ぼくは、やはり、教会の方へと赴き、墓地を訪れた。彼のもとへ行かずして、旅立つことは出来なかった。
ぼくは、ブルーノが眠るお墓の前にしゃがみ込み、何をするでもなく、じっと、墓石に刻まれたブルーノの名前を凝視していた。
「あら」、とふと声がする。背後だった。
ぼくは振り向くと、何となく覚えている顔の尼僧を見た。白髪まじりの頭で、祭服を纏っている。
「カタリーナさん」
「こんにちは。いい日和ね」
よく晴れた、明るい朝方だった。朝露が下りた落ち葉だらけの地面は、湿っぽいにおいがした。
「お墓参り?」
「えぇ」
カタリーナさんは、ぼくの隣に来ると、「よいしょ」、と、ぼくと同じく、しゃがみ込み、共にブルーノの墓石を見下ろす。
「確か、フリッツくん、だっけ?」
「そうです」
カタリーナさんは、ぼくの方に顔を向け、「あの時は何も聞かなかったけど」、と切り出した。
「二人は――つまり、ブルーノくんとは、どういう関係だったの? 兄弟?」
兄弟と聞き、ぼくは思わず苦笑いが零れた。聞き馴染んだ言葉だった。
「よく言われるんですけど、ぼくらは兄弟ではありません。背格好も、人相も、全然似てないですよ。今となってはもう比べようがないですけど」
「あら、そう」
「いっしょに、旅してたんです。ぼくは早くに親を失った孤児で、ブルーノも、おんなじ境遇だったんです」
「……」
カタリーナさんは、ぼくの話に、深く頷いた。彼女が哀れみを持ってそういう仕草をしたのか、ただの相槌なのかは、はっきりしなかった。
「だから、ぼくとブルーノは、仲間だったんです。まぁ、確かに、兄弟のようなものではあるでしょうね。お互い、血は繋がっていないけど、ずっと一緒でしたから」
カタリーナさんは、目を逸らし、口を一文字に結んで、どこか考える風だった。
「寂しいわねぇ……」、と彼女がしみじみと呟く。
「そうですね。寂しいです。ぼくにとって、唯一の、パートナーでしたからね」
「これから、どうするの?」、と彼女は再びぼくに目を向けて訊く。
「これからは、また、旅をしようと思います。ちょうど、面倒を見てくれるというか、付き添ってくれる大人がひとりいてくれたので、彼に付いて行くんです」
「わたしは」、と、カタリーナさんは、どことなく強い語気を偲ばせる口吻で言った。
「わたしは、反対するけどね」
「……」
「あたなみたいなまだまだ幼少の子供は、ちゃんと背が伸びて、知識を身に付けるまで、世に出るべきではないと思う」
彼女の言葉に、ぼくは黙然と、微笑んで返すほかなかった。そして、その微笑みには、決して本意ではないけれど、事情を知らない局外者に手前勝手な言葉を浴びせられる時のように、冷やかな嘲りがこもっていた。
カタリーナさん自身も、彼女の言葉が、ある前提を必然としていることを――つまり、あらゆる子供には、必ず衣食住の保障された環境があるというのは、思い込みであるということを、言う前からすでに分かっていたのか、言ってすぐに失言と悟ったのか分からないが、言下にバツが悪そうに、また目を逸らす。
「ごめんなさい」、と彼女。「わたしだったらそうする、っていう仮定の話で、他意はないの。もし、傷付けたのなら、謝る」
「いいんです。ぼく自身が、自分が無茶をやるものだと呆れてるくらいですから」
――落ち葉が、はらはらと一片、ぼくの肩に落ちかかり、滑ってゆき、ブルーノの墓石の前に落ちる。
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