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従卒になりたいのだと、受付の女性に、話を聞いてみた。
白い襟付きの衣服にネクタイを締め、髪はサラサラのブロンドで、とても垢抜けていて、ぼくはドキドキした。
「従卒でしたら」、と彼女は遥かに年下のぼくに対しても、敬語を用いて答えた。
「従卒でしたら、お城の方へ直接お申し出いただくのがよろしいかと。ギルドでは従卒の求人は取り扱っておりませんで、何分お手数をおかけしますが」
「お城」、とぼくは呟き、頭の中に、フェノバールの城を思い浮かべた。
複数の巨大な建物を寄せ集めたような外観と規模に、淡い橙色の壁。尖塔にあいた窓の闇は、見張りの目を思い浮かばせる。
ぼくは女性に礼を述べ、ギルドを後にした。
ギルドハウスを出てすぐ、ぼくの前に突然ひとが立ちはだかってびっくりしたが、リフレとミアだった。
「リフレ、ミア……驚かせないでよ」
リフレとミアはにっこりと笑う。
「お昼ご飯は別々に食べるのは都合が悪いですから」、とリフレ。
「どうだった?」、とミアが率直に尋ねる。「フリッツの望む仕事は、あった?」
「うん」、とぼくが穏やかに答えると、ミアは晴れやかに笑った。その笑顔が、ぼくにはとても快かった。
「でも」、とぼく。「ギルドでは取り扱ってないらしいんだ」
「その、何だっけ、従卒っていう?」
「そう」
――従卒、側仕えとも言える。要するに弟子であり、子分であり、下っ端である。
「まぁ、仕事探しは、焦る必要はないでしょう」、とリフレ。「少なくとも、食事を断念しないといけないほど急ぎのことではないはずです」
「そうですね」、とぼく。
「お腹すいちゃった」、とミアがすっかりくつろいだ感じで言い、腹の虫がやまないと嘆く。
そういうわけで、ぼくらは何か食べ物を提供してくれるお店を、牛車を牽く牛を連れて探して回り、露店の並びがあったので、ソーセージや、果物を買って、観光がてら、食べ歩いた。
そこそこ大きい石橋があり、その中程まで歩き、欄干まで寄ると、下には川が見えた。水量はまずまずで、あるいはこの町には風呂屋があるかも知れない。
「フリッツさん、ミアさん」
リフレがふと、呼びかける。
並んで下を覗き込んでいたぼくらは後ろを振り向き、リフレを見ると、彼は、ちょっと申し訳なそうに眉を下げ、要望でもあるようだった。
「どうしたんですか、リフレさん?」
「ちょっと、行商に行かせてもらっても、よろしいでしょうか?」
「行商」、と呟いて間もなく、ぼくはみずからの立場を思い出し、色を正して「勿論」と答える。
「もし必要であれば手伝わせてもらいます。何なりと言ってくだされば。ぼくは云わば、リフレさんのお付きですから」
「いえ、ちょっとお時間を――といっても、小一時間は欲しいところですが――いただければ、戻ってまいりますので」
「それだけの時間でだいじょうぶですか?」
「えぇ、だいじょうぶです。しばらくお二人だけになりますが、何かあれば、声を上げていただければ。早急に駆け付けますので」
――果たして本当だろうか。叫び声を上げたところで、遠いところにいれば聞こえず、意味がないと思うが。
いずれにせよ、この場をあまり動かないのが得策というものだろう。町のあちこちを探索してみたいものだが、好奇心は猫をも殺すという。また、旅の後で疲れが溜まってもいる。ゆっくりじっとしているべきだ。
リフレは牛を連れて行商に出ていった。牛車には何種もの薬が壺などに入って保管されている。
しかし、ミアと二人きりだ。特に用事もなく、彼女と過ごすのは、いつ以来だろうか。
心なしか、ムズムズして、居心地が悪い。特に話題もなく、ぼくは、欄干に両肘を突いて空を仰ぎ、ミアは、また川を見下ろしている。
うっすらと翳りを帯びた午後の空。
ぼくは陰になっている黒雲を睨み付け、目線を城の方へとやる。
そして、じぶんの使命を改めて感じ取る一方で、ギルドハウスで口を利いた受付の女性の美貌が、甘美によみがえって来、ぼくは、ミアのそばにいて、やや後ろめたい気分になるのだった。
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