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その後、リフレが行商に行ってから、ぼくとミアは、互いにはっきりとしない疎遠の感じを覚え、いっしょにいるにも関わらず、それぞれ言葉少なに過ごした。
気を利かせて話題のひとつやふたつでも、どちらかが振れば、この沈黙しがちの意味のない重苦しい雰囲気は、雲散霧消しただろう。
だが、お互いに意地っ張りなのか。目線を違え、何をするでもなく、ぼくら二人は、空き時間を過ごした。寒いのだから、近く寄り添えばいいのに、長くいっしょにいるせいか、今更あえてそうする必要も感じないのだった。
確かに、お互いに完全に沈黙し切ったわけではない。一言半句は口を利いた。
ぼくの脳裡には、先刻見て快いと思ったミアの笑顔がチラつき、接近したい気持ちに駆られるのだが、くだらないプライドが譲らなかった。
――あるいは、とぼくは、考えてみる。
あるいは、ぼくらを覆う暗雲、要するに、ぼくにおいても、ミアにおいても、先行きは決して明るいものではない、ということに由来する、気分の落ち込みが、打ち解けたおしゃべりを妨げたのかも知れない。将来への見通しは悪く、積極的に前進するには、あまりにも、心当てに出来るものが乏しく、後退こそしないまでも、容易に停滞し得る現状に対して、憂鬱を抱えていた。
どれくらいの時間が経ったろう。
ぼくは、とうとう堪え切れず、目は向けなかったが、ミア、とその名を呼ぶために、軽く呼吸を整えたかと思うと、「あっ」、と、彼女が何かを見つけたように発した。
首をひねると、リフレが帰って来た。もう小一時間ほど過ぎたらしい。
やれやれ、と思い、ぼくとミアは、リフレと合流し、橋を後にし、宿を探しに行く。
彼によれば、薬は売れたみたいだ。特に老人に売れ、体の悪くなりやすい老人は、薬屋にとって、よい商売相手に違いなった。
しばらく歩き、一隅に、こぢんまりとした建物があった。壁掛けの看板に、宿のサインがある。切妻のレンガ屋根が木の骨組みの土壁の上にどっしりと載っている。けっして上等ではないが、反対にあまりにもひどいという印象は、外観から持つことはなかった。
もちろん、これだけの規模の町なので、もっとよい宿は、探せばいくらでもあるし、もっと印象の悪い粗末な宿も、いくらでもあった。
リフレが気に入ったのは、雪囲いのある繋ぎ場が併設してあることで、成るほど、雪は降っていないものの、少しでも寒気の入りにくい環境に牛を置いておくことは、とても気の利いた判断ではあった。
城に向かうには、時間があまりにも遅すぎた。
ぼくらは宿を借り、部屋でそれぞれベッドに入った。
その直前、ぼくはベッドの上で、枕のある方の壁にある鎧戸を上げて外に目を遣ってみた。
「ちょっとフリッツ」、とミアが少しプリプリして言う。「鎧戸なんか開けないでよ。寒い風が入ってくるじゃない」
そういう彼女は鼻まで掛布団で覆い、ずいぶん寒そうだ。
ぼくはちょっとの間だけだと、知らんぷりして外を眺め、真っ暗の夜のフェノバールを、街の全容の一望は出来なかったが、この宿の周縁を見下ろし、特に感慨もなく、気が済むと、「ごめん」と謝って鎧戸を下げた。
「いいですか。二人とも」、とリフレ。「燭台の火を消しますよ」
「えぇ。消して構わないわ」、とミア。
「ぼくも、だいじょうぶ」
ぼくも遅れて冷えた体を布団で覆うと、ミアの次に言った。
フッと火が消える。
完全に暗闇になる。
すると、自然と眠たくなってくる。
明日は城へ行き、従卒になりたいと申し込む。
しかし、リフレとミアの二人はどうするだろう? 付いて来てくれるだろうか。
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