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せっかく気を張って入った城から、何の成果も得られずに出るというのは、とても虚しいと感じることだった。ぼくは番兵に哀れみの目を向けられて、いとまごいを告げた。
トボトボとした足取りでぼくは歩き、リフレもミアも、跳ね橋の向こうで、顔をこわばらせて待ち焦がれており、すっかりぼく自身に自己を投影し、共に緊張し、また共に期待してくれていた様子だった。
彼らの問いに対して、ぼくが遺憾千万だという風に首を左右に振ると、彼らも共に落ち込んだ。
「まだ機会は、きっとありますよ」
と、リフレが励ましてくれる。
ミアも、「そうよ」、と加え、「諦めるのは早過ぎると思うわ」、と言ってくれた。
ぼくは陰気臭く笑い、「ありがとう」、と、大した感謝の意もなく述べた。
その感じは二人に如実に伝わり、ぼくは彼らに気を遣わせた。
いわば門前払いを食ったぼくは、その日特にする用事もないので、リフレの行商に同行することにした。もちろん、ミアもいっしょだ。
町中を練り歩き、薬を売り込んだ。ぼくとミアはハキハキした声で薬の販売をしている旨を宣伝した。だが、ミアはまだしも、ぼくはもうすっかり意気阻喪しているので、声にハリがなく、ぼくのかぼそい声に対して、誰も見向きもしなかった。
薬は売れた。やはり特に老人に売れたが、そうでないひとも、鼻が悪いからとか、肌が荒れているからと愁訴して、薬草や、植物性の脂より作った軟膏を買い求めた。
夜になって、ぼくらは、居酒屋でご飯をとることにした。居酒屋は、普段は知らないが、その時は繁盛していて、客が大勢おり、多分、隅々のテーブルまで埋まっていたと思う。
賑やかで、ブルーノを懐かしがらせる大酒飲みが調子に乗って踊っていたり、歌っていたり、感極まって泣いていたりし、他の者は大笑いするなり呆れるなりしていた。
あらゆるテーブルで、そこに付いている人種に相応しい話題が上り、盛んに言葉が交わされた。職人だったら仕事の話だし、色男だったら色恋沙汰だった。
ぼくは少々耳障りだったが、中に、ふと、あるキーワードがやけにはっきりと聞こえ、ぼくの意識は、もうそのキーワードの方に傾かざるを得なかった。
『叙任式』――。
ある近くのテーブルで、そう誰かが口にしたのだった。
「明日の叙任式、何着ていけばいいんだろうな」
男だった。四人、お酒と食べ物が豊富に並ぶテーブルに、各側に二人に分かれて付いている。全員、チュニックなどの軽装で、顔がうっすらと赤く、ほろ酔いという具合だ。
「裸でさえなけりゃ、何でもよかろう」
「んなこたぁ、当たり前だ」
「でも、あんまりみすぼらしいと嗤われるぜ」
「だけど、鎧なんて誰も持ってないだろう。叙任式で騎士に叙任してもらうだけでずいぶんかかるんだ」
「あぁ。おれはその費用を貯めるために一年は働いたね」
「要するに、偉くなるには、カネが要るってこった」
騎士?
彼らは確かにそう口にした。
騎士、叙任、明日……。
場所は、どこだろう。やはり、城なのだろうか。
ぼくは使いなれないナイフとフォークを止め、じっと聞き耳を立てていた。
ミアはきょとんとし、リフレはぼくの異変に気付かなかった。
――仮に、叙任式が城だとして、時間はいつだろう。明朝か、昼日中か、夜か……。
情報が、必要だ。
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