***
ボーっとして、無為に時間を潰していた。
何を想うでもなく、心を無にして、あばら家の薄い、嵐が来たら崩壊を危ぶむほど軋む壁にもたれていた。だが、家を改築したり、新たに構えたりする余裕などまるでないのだった。何となれば貧しい農奴の仮住まいだったのである。
――。
くしゃみが出た。冷えてきたようだ。そろそろ中に入ろう。村を抱く夜更けの林の木々は、その陰翳しか見えないが、風にざわざわとざわめいて、どことなくおどろおどろしく見えた。
狭い我が家。でも、いちばん落ち着ける場所である。間柱の両脇に小さい窓があり、テーブルの上の燭台に灯るローソクの火影が、ガラスに映り込んでいる。外は真っ黒。
テーブルには、普段着であるチュニックを着た母が付いていたが、突っ伏していた。寝息を立てて、すでに睡眠中のようだ。灯りにほんのりと照らされた寝顔は安らかだったが、目蓋が疲れの色を帯びていて、思わず目を背けたくなった。
ぼくはもしかすると、母の負担になっているのではないだろうか。一緒に暮らしていて、何か面倒をかけているのではないだろうか。そんな疑雲が、もくもくと湧いてきて、ぼくに責め苦を負わせるのだった。
ベッドで寝る方がリラックス出来るだろうが、わざわざ起こすのは気が引けたので、遠慮した。そっとしておくのがいいと思った。
灯りはどうしよう。付けておくと、火事になるかも知れない。
「お母さん、灯りはもらうよ」
そう小声で呟いて、ぼくは燭台のローソクの火を、火口を用いて手持ちランタンに移し、その後、ローソクの方の火は吹き消した。
ベッドまで行き、枕元にランタンを置くと、ランタンの火も吹き消し、部屋は真っ暗になった。
耳を澄ますと、母の寝息が聞こえる。吸って、吐いて、吸って、吐いて……乱れることのない呼吸のリズム。寝顔には疲れが見えたが、体そのものは不調というわけではなさそうだ。その点は確かだと捉えていいだろう。その幸先のよい推断に、ぼくは一抹の安堵感を得るのだった。
穏やかな気持ちで、目を瞑る。すると、ネガティブなイメージが浮かび、母の疲れた目元と一緒に、ぼくらがその支配下にある領主の顔が蘇る。でっぷりとした肥満体で、面と向かうと妙な異臭のする中年の男で、租税として畑の収穫を納品する時の高圧的な態度がいつも気にくわなかった。
しかし、封建的関係にあっては、主従の順位は明確であり、反抗するわけにはいかなかった。母もぼくも、腹の内では屈従していなくとも、表向きは、平身低頭していなければならなかった。もし反抗心や敵意をあらわにすれば、ぼくらは追放され、流れ者の身となってしまう。そうなれば、定住する家もなく、仕事もなく、野垂れ死にするまで亡霊のようにさまようか、さっさと覚悟を決めて首を吊るなどしなくてはならない。
牢獄とは逃げ場のないものだ。そして今のぼくは、まるで牢獄に閉じ込められた気分だった。自由も展望もなく、あるのは屈服や隷従などの無理強いばかりで、正しいのは常に自分を管理し、虐げる
だが、その感じ方は、あながち間違いではないのだった。
***