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翌日、ぼくはまた、城へと赴いた。
今度はもう、リフレとミアには、ぼくに同行せずに、好きに行動するようにと、強く勧めた。あるいはまた無駄足になるかも知れないというおそれがあり、彼らにまで、無駄骨を折らせるわけにはいかなかった。
彼らが付いてくることを、ぼくはむしろ、頑とした態度で、拒んだくらいである。気遣いがそうしたというよりは、プライドが彼らを遠ざけたという方が正しいかも知れない。
彼らは、半ば当惑して、ぼくを見送った。彼らがその日何をするか知らなかったが、リフレの行商にミアが随行し、補助するということ以外、浮かばなかった。
ぼくらは決して余裕のある旅人などではなく、ぼくとミアは、一刻も早く目標に到達し、リフレの庇護のもとを抜け出ないといけなかった。彼にとって、無償で見ず知らずの子供の世話を見ることは、負担になっているに違いない。だから、何日もぐずぐずとくすぶり続けて、児戯に類する行商のお手伝いだけで、宿代なり食事代なりを出してもらうわけにはいかないのだった。
城中はいつもの感じで、人手が多く、多忙そうだった。
ぼくはやはりオロオロして、辺りを見回すと、偶然、廊下で、前日会ったメイドを見つけ、声をかけた。眉が下がった表情の彼女は、またしても書物を抱いており、やることは変わらないようだった。
「あなたは、見覚えがありますね」
彼女はしげしげとぼくを見つめる。
「昨日、同じ場所でちょっとお話ししました」
「あぁ、道理で。今日はどういった御用でこちらに?」
「実は……」
と、ぼくは話し始め、叙任式の行われることを耳にし、詳細を聞きたいのだと乞うた。
「叙任式でしたら、今日の日暮れより、礼拝室にて執り行われることになっております」
「騎士になるひとは、みんなそこに集まるのですか?」
「えぇ。皆さん夜通し祈祷して、明朝、騎士団長より武具の授与を受け、正式に騎士と認められます。ちょっと長くて、眠たくなったりしそうですが、通過儀礼なので、形式が変わることはないでしょう」
「そうですか。分かりました」
ぼくは一礼すると、早々と城中を出て行った。メイドは納得しなかったのか、不思議そうにぼくを見送った。
跳ね橋を渡り、道を歩きながら、ぼくはじっくりと考えごとをし、やがて行商中のリフレとミアを見つけると、合流し、夕か夜にまた城へ行くことを告げた。元々町のこの地区で行商をするからと、事前に話し合っていたので、大きい町でも、はぐれずに合流出来たのだった。
あまり遅くなると『彼』を逃す可能性があったので、ぼくは夕方になるとすぐにまた、ふたりと別れ、城へと赴いた。
門番に、叙任式の参加者がどういう風に来城するか聞くと、複数ある出入口のどれかより入城し、受付で手続きすると言われたので、あるいはぼくが一か所で見張っていても、他の出入口を使われたら、アウトだった。
だが、だからといって巡回したところで、じぶんがいない間に、そのいない出入口を使われたら、会えずに逃してしまうのだった。
迷っているヒマはなく、仕方なく、ぼくは、昨夜そこで食事した居酒屋のある方角に一番近い門のところで待つことにした。
十分、二十分、三十分。
早めに来たので、待ち時間は長かった。
だが、ポツポツ、叙任式に参加しに来たと告げる者が現れだし、彼の到来を緊張感と共に待ち侘びた。
果たして、彼はやって来た。
夕暮れをバックに、あのオレンジ色に近い色の、ほとんど夕焼けと同色の髪色の、彼が、向こうより、やって来た。剣を背に負って。
ブレイズだ。
「お前は、昨日の……」
「ちょっと、話したいことがあるんです」
「俺は今から城に用があるんだが」
「大事な話なんです。ぜひ聞いて欲しいんです」
ブレイズは、ハァとそっぽを向いてため息したが、再びぼくを見ると、「手短に話せよ」、と言った。耳を傾けてくれるようだった。
彼は、しかし、あまり寛容そうに見えはしないが、果たして、ぼくの従卒になりたいという話に、どういう顔をして見せるのだろうか。
ぼくの緊張は、ずっと解けなかった。
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