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「何ぃ?」
と、ブレイズは、呆気に取られたように目を丸くした。
「もう一度言ってくれ」
ゴクリと、ぼくは固唾を飲み込むと、口を開いた。
「従卒になりたいんです」
ブレイズは、ハァとため息すると、やれやれと言わんばかりに手で顔を覆い、すっかり動転したようだ。
「そう直接言いたいがために、お前はここで待ってたのか?」
「はい」
「馬鹿げてる。何で俺に? お前とは昨夜たまたま口を利いただけの間柄じゃないか。赤の他人同然の」
「その通りです。でも、ぼくにも意地っていうものがあります。ぼくは力を付けるためにこの町へ来た。仲間がいます。昨夜ご覧になったでしょうが」
「成るほど。お前には、俺の他には、ツテとなり得る相手がいないということか」
「……」
黙ってぼくは頷いた。
「ぼくの他にいる二人の内、ひとりは、薬師で、しっかりした大人ですが、彼はぼくの身内でも何でもなく、今は世話を見てくれていますが、永続的ではありません。あくまで仮初めであり、ぼくは一日でも早く、自立できる道を見出さないといけないんです。後のひとりはぼくと同じ子供に過ぎません。女の子ですが」
「自立って、お前、親はどうしたんだよ?」
「……いません」
ブレイズは矢庭に険しい顔になった。
「父は早い時期に亡くなり、その記憶が全くないほどです。母も、この春に流行り病を患って、旅立ちました」
「ずっと、フェノバールで、この町で暮らしているのか?」
「いえ、ぼくの故郷はメンドンと言って、フェノバールよりずっと遠い村です。ここまでは、旅して来ました」
「メンドン?」
ブレイズが、自身に関して思い当たることでもあるように、聞き返す。
「はい。そこで生まれ、育ちました。ブルーノという、途中までいっしょに旅した男と出会い、知り合いました。彼ももう、この世の住人ではありませんが」
「偶然だな。俺の故郷もメンドンっていう村なんだ」
「えっ? ということは、ぼくと出身が同じ、ということですか?」
「だろうな。他に同じ名前の村があれば話は別だが」
ぼくは驚きを禁じ得なかった。まさか、こんなところで同郷の者と遭遇するなどとは、思いも寄らなかった。
ブレイズは、「お前、名前は」、と尋ねて来、ぼくは答えた。
「フリッツ」、とブレイズ。「お前の親は、ひょっとして、農民か?」
「農民といえば農民です」
「地主か?」
「いえ、地主の畑を借りて耕作するだけの下働きです。ぼくも、手伝っていました」
「そうか」、とブレイズは、しみじみとした様子で納得する。何か、ぼくと彼の間には、共通項があるようだと、ぼくはうっすらと直感した。
「俺の親も、同じ感じだ。だが、あいにくと、あまり長々とくっちゃべっているヒマはないんだ。俺には叙任式がある」
ブレイズは跳ね橋を渡って城の方へ立ち去る素振りを見せ、ぼくは慌てて、彼に大声で問いかける。
「従卒は?」
彼は首だけで振り返り、「考えといてやる」、と答えた。
ぼくはホッと安堵するようだった。
「だが、まずはおれが騎士にならないと始まらない。だから、まぁ、とりあえず待ってくれ。話はそれからだ」
――フェノバールへ来て、もう数日が過ぎる。だが、全くの無収穫というわけではない。決してはかばかしくはないが、一日、一日と、ことは前へ進んでいる。
まだまだ、予断を許さない状況だが、何かの萌しは、あるに違いないと思われる。
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