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朝、ぼくは早く目覚めた。
冬の朝焼けが、鎧戸の隙間より漏れて見える。
リフレとミアは、まだぐっすりと睡眠中だ。無暗にベッドを出てあれこれしては、起こしてしまうかも知れないので、しばらくじっと考え事でもしていようと思った。
外で馬車か何かが通る音がする。敷石の地面を車輪が転がるガラガラという音だ。
もう夜ではないことは確かだが、叙任式は果たしてどこまで進行したのだろう。もう終わっている可能性は、否定出来ない。
今は待つばかりなので、特にこれといってやることもないので、二度寝しようと目を瞑ってみたが、どうにも目が冴えてしまったようで、寝付かれない。
仕方なく、ぼくはなるべく音を立てないようにベッドを出、服を着替え、外へ出た。
ブラブラ歩き、会堂か何かの一軒の建物の側面にある階段を上り、その屋上より、城の方面を窺ってみた。すると、早朝のひと気の少ない、ひっそりとした趣きのある風景に、人影がチラホラ見えた。
確かに辺りには、早起きの人々が、明けた一日のための準備に孜々と取り掛かっているが、彼らは、そういう感じではなく、城から出て来て、散っていくようだった。
ぼくは、時機を悟り、叙任式が終わったのだろうと推定し、にわかに慌ただしく、上った階段を下り、城へと向けて駆け出した。
明るい広場を突っ切り、薄暗い路地を抜け、城を目指して、ぼくはとにかく進んだ。
ふと、道中、駆けながら、かたわらにひとの気配を察し、チラッと一瞥したら、ブレイズだった。彼は過日そうしていたように、建物の壁の、鎧戸の下りた窓のそばにもたれて、手をポケットに突っ込み、空を仰ぐようにしてポカンとしていた。
「――ブレイズ?」
くたびれて見える彼に気を遣って遠慮がちに声をかけたが、まるで届かなかったようで、二度、三度、声を張って呼んで、ようやく彼は気付いた。
「あぁ」、とブレイズは、目の下にうっすらとクマのある顔を向けて言う。「お前のことは、覚えてるよ。昨日約束したんだよな。確か、フ、フ……」
彼がはっきり思い出せないという感じで言い淀むので、痺れを切らしたぼくは、「フリッツです」、と言った。
「フリッツか。すまなかったな。悪気はないんだ。とにかく眠くて仕方がないんだ」
「叙任式はもう終わったんですか?」
「何とかな。夜はずっと城の中でお祈りをして、朝は騎士団長から武具と拍車を授かった」
「おめでとうございます」
「ありがとよ。ここまで来るのに、結構苦労したんだぜ」
「詳しい話が聞きたいです。勿論、今日じゃなくていいので。ぼくも、騎士になりたいと思ったから、従卒になることを申し出たんです」
――ぼくらのすぐそばを、馬車が通りかかる。また、あのガラガラという車輪の音。その間、ぼくとブレイズは口を噤み、ぼくは、彼の了承が得られるどうかということにこだわっており、他方、彼は、何を考えているのか皆目分からず、とにかく、やはり、眠たそうなのだった。
「まぁ」、とブレイズは、馬車がすっかり通り過ぎて静かになると、言った。「長い道のりだと思うが、お前がやろうと思うなら、俺は別に、引き受けてやってもいい」
「ホントですか?」
ぼくは率直に喜ばしい気持ちなった。
「あぁ。だが、騎士になりたての分際で、いきなり徒弟を持つなんて、周りから、どういう風に思われるかな」
――そうだ。ぼくはみずからの希望のみを考えて彼に頼み事をしているが、彼には彼の、都合というものがあるのだ。
「とりあえず、今日はゆっくりさせてくれ。疲れたし、眠いんだ。話はその後じっくりしよう」
そう言って、ブレイズは壁に持たせている背を離し、立ち去ろうとする。
ぼくは、いささか狼狽して呼び止めようとしたが、彼が気を利かせてくれたようで、彼は立ち止まると、ぼくの方を向かずに、ぼくの聞きたいことを教えてくれた。
「今日の夜、あの居酒屋で待ってる。じゃあな」
彼は、手をヒラヒラと降って去っていった。
朝日が昇り、辺りは眩しいくらいになった。
リフレとミアは、もう起きているだろうか?
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