第205話
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盗賊のやることというのは、やはり誰かの財産を奪うことだろう。
決して社会的に認められている仕事などではもちろんなく、不運か何かを理由にあぶれてしまった者で、しかも、生への執着心や、抜け目なくしたたかに立身出世した上流の貴族たちへの反感が根強い者が、そういう外道へと逸れる傾向がある。
だが、みずからに絶対に相応しい天職というのは、結局のところ、初めから明らかなものではないので、誰しも、大なり小なり進路に迷い、幸運を掴んだものは成功するが、掴めなかったものは行き詰まり、悩み、挙句、身をやつす。
詰まる所、
大国バルビタールが派遣した騎兵団の長から、傭兵として働かないかという提案を受けた、ある盗賊の首領であるエルは、しぶしぶ合意し、その後、彼らはとりあえず賊というものをやめ、傭兵に転じた。
バルビタールは盛んに戦争を他国に仕掛け、従って兵の動員が繁多であり、傭兵も、例外ではなかった。
エルたちは戦場に駆り出され、防具もまともに身に付けていないのに、前線での進軍を命じられ、要するに、使い捨ての駒同然の扱いを受けていた。
すでにエルの仲間の内、数人が戦死し、しかしその亡骸は見捨てられて、後はせいぜい、死肉を貪る動物の餌となるだけだった。
何とかうまく死線をくぐり抜けて生存している者も、戦場に足を運んでいくたびに、段々と健やかでなくなり、トラウマを抱え、睡眠出来なくなるなど、精神的に病んでいった。
中には逃げ出す者もいたが、エルは苦しい中でも、粘り強く戦い、生き延びた。与えられる報酬がとてもよく、彼はもうお金のためだけに、戦っていた。
前線には、盗賊以外の傭兵も参加することがあり、しかし前線に立っているということは、ずっと奥で指示を出している統帥部から、軽んじられているということの歴とした証だった。
エルのそばには、いつもクロロという、みなしごのエルと同じ境遇に育った幼い子供がいて、彼も漏れなく傭兵であったが、エルが決して戦地に行かせず、傷病者の手当など、比較的安全である後方での活動に当たらせた。
クロロは、まだ何も知らない無垢の児童に過ぎなかったが、何が戦地で行われているのかは、薄々分かっていたし、酸鼻を極める殺し合いから遠ざけようとするエルの気遣いも、ちゃんと察していた。
だから、彼が日を追うごとに徐々にやつれていっているという変化も分かった。
エルは、確かに正規の兵と遜色のない働きをしている。前線にあって、ビクビクして後退するなどせず、勇猛に敵兵と渡り合い、やっつけるか、やっつけられなくても、目敏く戦略的に逃げた。
クロロがその管理を任された、袋の中に大事に貯め込んだお金は、もうたんまりと貯まっていた。いい宿をとって庶民には中々ありつけない肉料理をたらふく食べても、お釣りが来るくらいだった。
だが、来る日も来る日も、戦場に動員されて、のんびり過ごせる余暇がなかった。
クロロは、エルの疲労やバルビタールの情勢などを鑑み、エルにおいて、いつかこの状況が持ち堪えられなくなって破綻するというぼんやりした確信が兆していたが、その時がいつなのかというのは、予測出来なかった。
ただ、その時が、そう遠くないことは、確かなように、思われた。
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