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最前線で戦う下級の兵士からしてみれば、最後方の統帥部がどういうものなのか、てんで想像も出来ないのだった。
そのくらい、各々は距離においても階級においても隔たっていたし、容易に相手に近付こうとすることもなかった。
だが、出征する際には、共に行軍するので、最前線の歩兵も、後部の騎兵を見ることが出来る。見るだけでは、何の咎めもない。
いかめしい甲冑をまとった宗教騎士団を中央後方に、後は作戦に応じて陣形を組む。
甲冑には、紋章が描かれていて、その紋章というのは、盾なのだった。しかしありふれた盾などではなく、翼が生えて、光の輪が上部に浮かんでいる。
『真光教団』の騎士たちが、猛者ばかりだという評判は、もう周知のものだった。
彼らも最初は、無名だったが、徐々に頭角を現し、勢力を増して、風声に聞こえるようになった。
猛然と敵を駆逐する彼らは恐れられ、恐れる者らを、彼らは捕えて集め、彼らの拠点に連行した。
エルが無理強いして乗り込んだ馬車は、正規の兵専用のものだったが、教団の兵ではなく、バルビタールに住む常置部隊の兵だった。
エルも、流石に教団の馬車にちょっかいを出す気にはならなかった。彼らが只者ではないことが、うっすらと感じられたからである。
馬車の中でくつろいでいたエルは、おもむろに立ち上がり、揺れる馬車の中をヨロヨロと馭者の方へと近寄っていき、「なぁ」、と軽薄に声をかけた。
「何だ」、と馭者の兵は、厚かましく乗り込んできたエルを横目で睨んで応じる。
「ちょっと聞きたいんだが、今までやってきた戦争っていうのは、教団の意向を前提にしてるんだろう?」
「さぁな。じぶんには答えかねる質問だ。なぜならば、戦場にいる兵士は大局を見る必要がないから。事情が知りたいなら、仕掛け人に直接訊くのが最善に違いない」
「教団にはじかに接触出来ないから、あえて遠回りしてるんだろうが」
「何だと?」
「何だよ」
エルと馭者は、厳しい目で睨み合い、一触即発の状態になったが、時機があまりにも相応しくないので、大人しく互いに退いた。
仲間たちが全員眠っている中で、こっそりエルの方を窺っているクロロは、ケンカにならずに済んでホッとした。
「大体」、と馭者が正面に向き直り、言う。「我々だって何も知らないのだ――まぁ、我々のような末端のただの戦闘員が、戦争の大義をちゃんと知っている必要などないのだろうが」
「まぁ、そうだ。俺も、金のためだけにやってる。実入りが悪けりゃ、とっくの昔にトンズラこいてらぁ」
「いや――」、と馭者は、いやに冷淡に呟く。「むしろ、逃げるのがいいのかも知れない。教団が来てから、本当に戦争が増えた」
「逃げるくらいなら、端から傭兵なんてやらねぇよ」
その言葉を捨て台詞にエルは馬車の奥に戻り、ベンチの端に再び腰を下ろし、ゆったりした姿勢で腕組みして目を瞑った。
疲れていて、意識の灯がフッと消えるのは、あっという間だった。
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