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傭兵というのは、かりそめの雇用なので、労働に対する報酬はあっても、その他は特になく、たとえば軍とか王政が経営する寄宿舎への入居が割安で出来るなどという待遇は、皆無なのだった。
確かに、そういう意味で言えば、傭兵というのは軽く扱われるし、いらなくなればたやすく解雇されるので、あまりいい身分ではないのだろう。
だが、昨今のバルビタールの好戦的な情勢において、戦争は稼げる仕事であり、従って傭兵も、その辺の商人や職人に比べると、ずっといい暮らしが出来るほど、収入を得ていた。
だから、寄宿舎がなくとも、エルたちは、ちゃんと屋根と壁のあるところで安眠することが出来たし、仕方なくその辺の得体の知れない草や木の実を口にして、腹を下すということもないのだった。
戦場よりバルビタールに帰還し、次の呼集があるまで、エルたちはひとまず休養することにした。
その夜は長旅の疲れがあったが、篝火の明々と燃える町の跳ね橋を渡ると、エルたちは、こぞって居酒屋へと向かった。中には眠くてすぐに寝たいという者もおり、彼らはしょぼついた足取りで、どこか宿にでも向かうのだった。
居酒屋では賊たち――あるいは傭兵たちは、旺盛に鯨飲馬食し、騒いだ。もちろんアルコールはたっぷりと注文され、飲まれた。
首領でありながら、多くの同輩たちより年下のエルは、まだアルコールが口に馴染まない感じだったが、体面をよくするために、飲めるふりをし、はやいピッチでグビグビと飲み、フラフラになった。
彼のそばにずっといる幼いクロロは、意地の悪い仲間に無理矢理アルコールを飲むことを強いられ、仕方なく舐めてみたが、ただの苦味しか感じず、拒絶した。
いつしか、赤ら顔のエルはテーブルに突っ伏して寝ており、満足した仲間たちは、段々と席を外し、帰っていった。こういう時、勘定をするのはやはり、首領なのだった。
やがて居酒屋の客数も疎らになって、店員たちが徐々に店じまいを始めた頃、テーブルはもう、エルとクロロの二人だけとなっていた。
エルはずっと寝、クロロはずっとそのそばに座っていたが、ふと、寝ているはずのエルが、ドンとテーブルがこぶしで強く打ち、その音でクロロはびっくりしてしまった。
エルの寝顔を見てみると、彼は眉間に不愉快そうにしわを寄せ、何かブツブツ言っているが、よく聞き取れなかった。どうも「ちくしょう」、と、何か呪っているようだった。口の端に泡を吹き、エルが悪酔いしているのは明らかだった。
とうとう店員がエルたちのもとを訪れ、帰ってくれるよう、言った。
もう、居酒屋に残っている客はエルとクロロの二人だけだった。
エルはずっと寝ていたが、クロロが肩を揺さぶってどうにか起こし、彼を引きずるようにして退店した。
寝ぼけたエルは、足を運ぶのがやっとで、一歩、一歩が相当遅く、彼を引いていくことでくたびれてしまったクロロは、その辺の物陰に一旦立ち止まり、座った。夜の通りは、とてもひっそりとしていた。
エルは座った状態で、あっという間にまた寝始め、クロロは、だが起こそうとはせず、彼と並んで座り、夜空に瞬く星々を仰いだ。
綺麗だなぁ、とうっとりする一方で、クロロはまた、物悲しい感じを覚えた。
彼にとっては、この町も結局、じぶんの居場所とするには、何か絶対的にあるべき要素が欠けているのだった。
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