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ブルーノは、職人だが、定住する職人ではなく、各地を放浪する遍歴職人である。
彼いわく、親方になることを目指して放浪しているのだが、どこもかしこも親方の席はすでに誰かが座っていて、中々いい立場を得られないらしい。立場というのは要するに、安定して持続的に収入を得られ、命令できる部下のいる持ち場だ。
「各地にはギルドっていう職人たちの集まりがあって、おれみたいな遍歴職人が挨拶に行くと、仕事の斡旋を依頼できるんだな」
ぼくとブルーノは、それぞれ焼きたてのパンを食べながら、村の通りをぶらぶら歩いていた。朝だった。
「この村は、どうかな、ちっぽけな村だから、仕事は、あんまり期待できないかもな」
いろいろある商店が各自、開店の支度をしているが、パン屋が一番早起きで、もうそれはまだ暗い時分に起きて仕込みをし、灼熱の石窯でパンをふんわりと焼き上げるのである。パン屋のパンはどんどん品数を減らしている。売れ残るにせよ売り切れるにせよ、一番開店の早いパン屋が、やはり一番に閉店する。
「だけど、昨夜けっこう金を使い込んじまったからな。やったことがない仕事でも、やらなきゃいけないかも知れないな」
「例えば?」、とぼくは問う。
「そうだな」
ブルーノは顎をもってとっくり考える様子だ。
「例えば、石細工とか、織物の染色とか、大工だな」
彼は目配せをして、その店の方に注意を促した。
軒を連ねる建物は、それぞれ商店と加工場を兼ねたものとなっており、あるところでは、先端の尖った槌で石を打って削っており、あるところでは、植物などを煮詰めて出た湯気の立つ染液に繊維の束を入れており、あるところでは、そこは空き地なのであるが、基礎を整えて、建物の建築を進めている。
「どれも、やったことないんでしょ?」
「あぁ、ない。だから、断られるかもな。素人なんてまっぴらゴメンですってこった。よっぽど人手が足りてなくて猫の手も借りたいっていうなら、話は変わるが」
ちなみに、ブルーノは木工品の加工を職業としている。だから今から、このパンを食べ終わった後に、村の商工組合に顔を出して、仕事について相談する予定だ。木工品の店はもちろんあるだろうが、仕事の有無は予断のできぬものだ。
どこにでも、仕事がないということはない。ただ、いい仕事と悪い仕事の二つがあり、いい仕事はみんなこぞって得ようとして奪い合うので、必然的に残るのは、みんなが嫌がって積極的にやろうとしない、悪い仕事ばかりになる。
もしこの村にブルーノの職歴に適合する仕事がなければ、そういう、報酬が低いとか、事故などのリスクがあるといったネガティブな要素のある仕事を引き受けないと行けないだろう。ましてそういう仕事を、素人として引き受けることになるわけだから、報酬の低さはかなり厳しいものになるだろう。
いずれにせよ、あらゆる人々の生活を支えているのは労働だ。労働の対価として、金銭を得ることが出来る。金銭は使ってばかりいるといつか底をつく。食い扶持は稼がないといけない。ひとは食べないと、生きてはいけないのだ。