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エルはある企てをし、そのためには、少々金銭の貯蓄が必要だった。
そのため、彼は辛抱強く従軍し、功を上げた。
ある者は、彼が昇格出来るのではないかなどという憶測を口にしたが、第一に彼においてその気があまりなく、また、軍のように規模の大きい場合が多い組織は、中に厚い壁が隔てている幾つもの位階の層を持っており、底辺の者が、頂点に昇格する、いわゆるなりあがりを果たす道筋はないのだった。
ともかく、彼はあまり得意でない銭勘定をし、いよいよ求める額が貯まったと知ると、次の戦役への徴募は断り、しばらくバルビタールより遠出した。
というのは、エルはアジトを欲しいと思ったのである。
今までのように、流れ者の身空では、ひとのものを盗み、稼げる金銭といっても、二束三文で、口にする食べ物も飲み物も、まともであったためしがなく、あるいは雑草、木の実、川魚などであった。
しかし、ひとところに留まり、決まった割り当てられた仕事を請け負い、成果を上げることで、報酬が得られた。
エルは、勇猛に戦い、何人も敵を討ち取ってはっきりと彼の戦士の才覚を示したが、本人にその自覚がまるでないのだった。自分がずっと賊であるということに、不満を持つことも、また逆に、満足を覚えることもないのだった。
さて、アジトというのは、職人に頼んで建設してもらう類のものではない。たとえば、打ち捨てられた屋敷などを、外観は何もせず、中だけ住みよいように作り変えたりして、目立たない、出来れば人目に付かないようにカムフラージュしたものが、そうである。
エルは、移動が楽になるようにと、馬を買った。バルビタールの近傍にある村を訪ねて、その牧場で探したのである。
黒鹿毛の馬で、日光を浴びるとうっすら褐色に照るのだが、暗いところで見れば真っ黒で、その色が、エルの気にいった。
彼は仲間にも与えるために、何頭かまとめて買い、しかし、人数分は買わず、複数人で乗る前提で買い求める数を限った――馬が何人乗れるかなど、考えずに。
エルたちは、馬に乗って、出かけた。乗りそびれた者、落馬した者は、あまり顧みられることはなく、置いてきぼりになった。
四頭の馬が走る。エルはクロロと乗り、その他には、仲間たちが乗った。
秋の平原を颯爽と黒鹿毛の馬たちが風を切って並走する。
目指すのは、廃村だった。望ましいのは捨てられた人家だった。あるいは岩山の洞穴などでもアジトとするには問題はないのだが、エルの好みには合わなかった。
エルにとっては、彼が以前忍び込み、あちこちに転がる死体を腐乱する前に片付け、物品を漁った村――一度は奪った馬を、飛脚の男に奪い返された、一面枯れ果てた麦畑の荒れ地があった、あの村のようなところが好適だった。
戦いはもううんざりだった。彼においては、人間らしい感情から、信頼出来る者、警戒したり反感を持ったりしないでいい者だけがいるところで、ゆっくりしたいという欲求が兆したのだった。
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