さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

212 / 451
第212話

***

 

 

 

 エルはある企てをし、そのためには、少々金銭の貯蓄が必要だった。

 

 そのため、彼は辛抱強く従軍し、功を上げた。

 

 ある者は、彼が昇格出来るのではないかなどという憶測を口にしたが、第一に彼においてその気があまりなく、また、軍のように規模の大きい場合が多い組織は、中に厚い壁が隔てている幾つもの位階の層を持っており、底辺の者が、頂点に昇格する、いわゆるなりあがりを果たす道筋はないのだった。

 

 ともかく、彼はあまり得意でない銭勘定をし、いよいよ求める額が貯まったと知ると、次の戦役への徴募は断り、しばらくバルビタールより遠出した。

 

 というのは、エルはアジトを欲しいと思ったのである。

 

 今までのように、流れ者の身空では、ひとのものを盗み、稼げる金銭といっても、二束三文で、口にする食べ物も飲み物も、まともであったためしがなく、あるいは雑草、木の実、川魚などであった。

 

 しかし、ひとところに留まり、決まった割り当てられた仕事を請け負い、成果を上げることで、報酬が得られた。

 

 エルは、勇猛に戦い、何人も敵を討ち取ってはっきりと彼の戦士の才覚を示したが、本人にその自覚がまるでないのだった。自分がずっと賊であるということに、不満を持つことも、また逆に、満足を覚えることもないのだった。

 

 さて、アジトというのは、職人に頼んで建設してもらう類のものではない。たとえば、打ち捨てられた屋敷などを、外観は何もせず、中だけ住みよいように作り変えたりして、目立たない、出来れば人目に付かないようにカムフラージュしたものが、そうである。

 

 エルは、移動が楽になるようにと、馬を買った。バルビタールの近傍にある村を訪ねて、その牧場で探したのである。

 

 黒鹿毛の馬で、日光を浴びるとうっすら褐色に照るのだが、暗いところで見れば真っ黒で、その色が、エルの気にいった。

 

 彼は仲間にも与えるために、何頭かまとめて買い、しかし、人数分は買わず、複数人で乗る前提で買い求める数を限った――馬が何人乗れるかなど、考えずに。

 

 エルたちは、馬に乗って、出かけた。乗りそびれた者、落馬した者は、あまり顧みられることはなく、置いてきぼりになった。

 

 四頭の馬が走る。エルはクロロと乗り、その他には、仲間たちが乗った。

 

 秋の平原を颯爽と黒鹿毛の馬たちが風を切って並走する。

 

 目指すのは、廃村だった。望ましいのは捨てられた人家だった。あるいは岩山の洞穴などでもアジトとするには問題はないのだが、エルの好みには合わなかった。

 

 エルにとっては、彼が以前忍び込み、あちこちに転がる死体を腐乱する前に片付け、物品を漁った村――一度は奪った馬を、飛脚の男に奪い返された、一面枯れ果てた麦畑の荒れ地があった、あの村のようなところが好適だった。

 

 

 

 戦いはもううんざりだった。彼においては、人間らしい感情から、信頼出来る者、警戒したり反感を持ったりしないでいい者だけがいるところで、ゆっくりしたいという欲求が兆したのだった。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。