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いいように利用されているだけという気がして、エルは、何だか気分がむしゃくしゃするようだった。
じぶんはひょっとして、誰かの手の内で踊らされているだけなのではないか――じぶんはひょっとして、滑稽でお人好しで愚にも付かない、情けない人間なのではないかと、そう思われてくるのだった。
賊として忍び込んだ廃村の厩舎で、バルビタールの騎兵に、多勢に無勢という具合で袋の鼠と追い詰められた時、エルは、結局、相手の勧めに従って、傭兵となることに決めた。
仲間はすっかり怖気付いて、相手に降参する気満々で、また、エルひとりだけでは、覆しようのない窮境でもあったし、思い切り暴れても、歴然たる力の差から、あっという間に取り押さえられ、捻じ伏せられたに違いない。
エルにしてみれば、今回の傭兵の話は、賊、ないしはあてもなく旅する流れ者であるじぶんたちと、バルビタールの軍の間の、対等な契約であり、決して、服従することや、何でも言うことを聞くことを認めたわけではなかった。
傭兵としての責務を引き受け、全うし、その成果に相応しい報酬を得るという関係で、相互に平等であり、それぞれの権益は守られてしかるべきだった。
バルビタールの兵から、踏み付けにせず、寛恕をもって拾い上げてもらった命と、感謝の念と共に従順に従うべきなのかも知れない、という考えも、脳裡をよぎったが、エルの中の根強い支配者への反感が退けた。
ただ、エルは、常に自由でありたいというだけなのだ。誰かの指示も、命令も受けないでいい立場を望み、そこに、孤立してでも構わないから、立っていたいのだ。
母の虐待と害意に晒され、一回限りの大切な青春をむなしく台無しにされ、もといた苦しい境遇を抜け出たいという一心から、もがき、苦しんで手に入れたのが、社会的には認められていない、むしろ敵視されたり軽蔑されたりさえする賊という身分だった。
それでも、彼に不満はなかった。
職業も身分も、些末な事柄に過ぎず、彼にとって最も重要なのは、自由であるかどうかであり、指示とか命令を聞かずに済むことであり、貧しいことは、どうでもよかった。
もしも自由がお金で買える類のものなら、彼は喜んで、守銭奴になっただろう。だが、お金で買える自由は、そのお金の分しか価値がないのだった。売り物にされる自由など、たかが知れるというものだ。
「――エル?」
と、誰かに呼ばれ、物思いに夢うつつだった彼は、我に返った。
彼は、目の前に弱弱しく燃える七輪の熾火を見た。燃え尽きる寸前の炭が、部分的に微かに赤熱する。
「クロロ」、と彼は、じぶんの名を呼んだ幼い少年のつぶらな瞳を見て返す。「どうした?」
他の同じように七輪を囲う仲間は、椅子に座って腕組みなどして目を瞑り、眠っているようだった。
「険しい顔だったから」
「おれが……そうか」
もう大丈夫だと、エルは言った。クロロは、その言葉に安心したようだった。
少年のそのやわらかい面差しを見て、年長者のは――クロロの保護者のつもりであるエルは、彼のために、くよくよしてはいられない、という風に、思うのだった。
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