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アジトでの一夜が明けた。
七輪のとろ火でほのかに暖かい部屋で、賊たち一同は、床のその辺に雑魚寝した。
ずっとまともに睡眠が取れなかったので、彼らは大いに熟睡した。安逸を求める疲弊したからだは、床にペタリと横たえた瞬間、もう起き上がれないかと思えるほど重く、鈍く、そして傷付いていた。
誰も口にしなかったが、戦死によって亡くなった仲間を、皆が思い、ある者は、しくしくと嗚咽を噛み殺して泣いた。
――翌朝。
近くで物音がする。屋外だ。
気付いたのはエルで、他はどっぷりと夢の中だ。
もう明るく、朝日が眩しいほどだ。
馬だ、とエルは感付いた。
見つかるのはそう先ではないと思うと、扉がノックされた。穏やかな手付きだったので、眠っている者たちの眠りは妨げられなかった。
エルは、彼においてもやはり鈍重なからだを、横たわっていた状態から、強いて起こし、応接しようと扉の方へと向かった。
彼は外へと出て、訪問者と対面した。
鎧を着込んだ、バルビタールの騎兵だった。馬に乗って、団長に代わり、単騎でやってきたらしい。
「ご機嫌は、いかがかな」、と騎兵は、高みから見下ろす。
エルは、面白くなかった。せっかくの隠れ家を、あまり好ましいと思えない者に見つけられてしまったからだ。
「
「何の用だ」、とエルは腕組みして睨み付ける。
「言うまでもない。お前たちは我が国の傭兵である。招集されれば、来なければならない」
「何だ。話が違うんじゃないか。傭兵っていうのは、都合のいい雑兵だろう。要らなければすぐにお払い箱に出来る」
「そこまで冷血であるつもりはないが。そのことは、報酬の手厚さを見れば分かるはずだ」
「こっちにだって、こっちの都合があるってもんだ。お前らの言いなりになるつもりなんて鼻くそほどもないぜ」
「まぁ、好きにするがいい。他に何か食い扶持を稼ぐ手段があるならな」
「――。」
団長は、手綱を広げて引き、馬を転回させた。もう帰るようだった。
「言うべきことは言った。後はお前らの自由だ」
騎兵が、首だけで振り向いてそう言い残すと、馬は高々といななき、俊足で去っていった。
ふと、扉がおもむろに開き、隙間より、誰かが顔をのぞかせる。
クロロだった。寝癖のひどい頭で、目を眠そうにこすり、「エル」、とかすれ声で呼びかけた。
「誰か来たの?」
「いや、誰も来てない」
「表に突っ立って、何してるの」
「ちょっと考え事さ」
「ふうん」
クロロは特に奇異に感じる様子を見せず、大きくあくびすると、扉を閉めて、寝に戻った。
――自由か。
と、エルはしみじみ思った。
わざわざ言われなくても、彼は、自由というものは、常にみずからのものであると、信じていた。
だが、このままこの先アジトでのんびり暮らしていけるほど、貯蓄はなかった。
今すぐというほど喫緊ではないけれど、確かに食い扶持を得る仕事は、放りだしたりせずに、保っていくべきではある。
そう考えると、エルは、ずっと尊重している、この空の朝日のように輝かしい黄金色の自由というものが、何だか急に褪めてつまらないものに見えてくるのだった。
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