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よく晴れた晩秋の、ポカポカした小春日和の昼下がりに、エルは、アジトのそばの木立の木の根元に、寝そべっていた。
仲間には、馬に乗って狩りに行ってくるよう、頼み、じぶんは、ひとり、留守番することにした。
頭の後ろで手を組んで枕とし、ボーッと、樹冠を通して青空を眺めた。
――バルビタールに戻り、傭兵として盛んに従軍することと、こうしてのんべんだらりとのらくら生活を送るか、天秤にかけていたのだ。
また軍に戻るとして、戦争はいつ終わるのだろう。確かに、一国を攻略するためには、数回程度の会戦では済まない。一方的に圧倒するとは限らないし、一進一退を繰り返して、戦果は乏しいのに、消耗ばかりが進むことがある。
最も厳しいフロントラインでの攻防は、リスクがあまりにも大きく、そのため、軍がほとんど重用しない雑兵が送られる。傭兵も同類だった。
客観的に見れば、一兵卒などただの捨て駒でしかない。簡単に失われ、簡単に替えが効く、都合のいい使い捨ての道具だった。
エルにしてみれば、みずからの毛並みの良し悪しを熟知しているので、特別、生への執念はなかったが、その代わりに命令者、支配者への怨念があり、その思惑の中で動くというのが、やはり意に染まなかった。
もしも、離反することになれば、じぶんたちは、果たして解放してもらえるのだろうか。
――望みは薄かった。エルとバルビタールの間には、因縁があったのである。
彼が、バルビタールの兵を、夜陰に紛れて暗殺したことが、そうだ。
仇である彼が、バルビタールに殺されもせず、生き延びていられるのは、バルビタールの国力が豊かで、一兵卒の死如きでは無害に近いからである。
だが、そういうわけで、エルはバルビタールに借りを作っている状態となり、彼が手前勝手に裏切り、恩を仇で返すといった真似をすれば、いくら国力が豊かでも、立法者であり、秩序を作り、維持するバルビタールにしてみれば、権勢を顕現させ、制裁を行わねばならなくなる。
エルはいわば、バルビタールに負っているものがあるのであり、返済が完了するまでは、切れない関係で繋がっているのである。
彼とて、相手取っているものの強大であることは重々分かっており、軽挙妄動は慎むつもりであった。
――だが、どこかに抜け道はないか、と、エルは、賊らしく狡知を絞って考えるのだった。
眉間にしわを寄せる渋面の彼の脳裡に、ふと、昔の思い出がよぎった。
色々と転職して、大工の仕事に就いた時、彼は、生まれて初めて、ひとと関わる温もりを知れた気がした。優しい親方に、信頼出来る仲間たちがいた。薄給ではあったけど、気の置けない者たちといっしょにいるだけで、充実感があったものだ。
ああいう経験がまた出来るかも知れない、などという淡い願望は確かにあった。だが、実際にやってみれば、やはり奴隷同然の待遇であり、仲間などおらず、いたとしても、どんどんと死んでいなくなるのだった。
エルは、たまに、泣きたくなった。金銭的に貧しいことは苦ではないが、剝ぎ取られた暖かい仲間たちの面影が浮かぶと、どうしようもない郷愁に襲われるのだった。
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