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貧すれば窮するというもので、居心地のよいことに感けてずっとアジトでぐうたらしていたエルたちは、いよいよ窮乏するという状況を目前にし、選択を迫られた。
文化的生活の維持のために、またバルビタールへ赴いて従軍するか、あるいは、傭兵より以前の、食うや食わずの流れ者の生活に立ち戻るか、という二択である。
エルはプライドが邪魔したが、やはり先立つ者は金だということで、傭兵の仕事に戻ることを決意した。
彼は首領なので、仲間たちは、自動的に、彼の決定に同意した。クロロも、エルの言葉に従うつもりだった。
だが、全員が同意したわけではなく、のらくら者の生活に慣れてしまって惰弱でどうしようもないという者が中にいて、そういう者は、積極的に反対しないものの、エルの決定に頷きもせず、口を一文字に結ぶだけだった。
エルは、そういう者らに対して、執着せず、ムッとした素振りもなく、好きにするよう、言った。彼らの心情は、エルには何となく分かる気がした。
「だが、誰も生活の面倒は見てくれないぞ」、とエルが去る前に忠告する。「てめぇのパンはてめぇで稼げよ。飢え死にしたくなけりゃ」
一同は、買った黒鹿毛の馬の全てに乗り、ちょっとした旅路へと繰り出した。彼らはアジトを後にし、木立を走り抜け、草原へと出た。
後は、あの大国へとひたすら進むだけだった。空は秋晴れで、やや空気が冷たくなったようだった。突っ切っていく風の感触が厳しい。
気乗りしない上に、この気候なので、エルは引き返したい気分に駆られたが、とんぼ返りするのはとても情けなく、出来ようもなかった。
エルは、タダで戻る気はなかった。金のためという理由だけでは、動機付けとして、足りなかった。彼をして、嫌気の差した傭兵に復帰せしめたのは、ある『謎』だった。
バルビタールは大国であり、すでにその影響力は広大だ。文明も発展し、経済は高度に進化している。命を下す王が、特別欲望が強い人物なのだろうか。どこまでも領土を拡大して、最終的には世界を統一しようという野望でも持っているのだろうか。
だが、経済が進化したことで、国民はもう戦争に対して意欲がなく、むしろ人手を取られるなど、商売の妨げになるので、反対であった。だから、バルビタールでは、兵を志す若者が減ったし、志願者が減ったことで、軍事力が衰微し、今は、傭兵を雇うようになったのだ。
そうまでして戦争をしたい理由を、確かめようと、エルは思ったのであった。もし、想像するように、王の過大な欲望が戦争の引き金となっているのであれば、別にそういうことだと納得出来る。
とにかく、前線で命の奪い合いをする上で、お金に加わるモチベーションが欲しかった。あるいはモチベーションとはならない理由である可能性があるが、もやもやした気持ちでは、出来る仕事も出来なくなってしまうというものだ。
エルは、やむを得ない事情から、不自由な状況へとみずから飛び込もうとしているわけだが、その中で得られる自由を少しでも多く拾い集めようという気持ちで、馬を走らせた。
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