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織物の加工に興味があった。
少しの経験も知識もないけれど、興味だけは、確かにあった。大工になって木材を運んだり、レストランのウェイターないしはコック見習いとして、食事にまつわるあれやこれやに務めたりするというのは、あまり気乗りしなかった。
母が布を編む姿をそばで見ていたし、今着ている衣服だって、母が内職のついでにと編んでくれたものだ。古いものはあちこちすり切れるなり、穴があくなりして、不格好だが、ぼくにとっては貴い価値のあるものだ。
「ねぇ、ブルーノ」
ぼくは穏やかに呼びかける。
「ん?」
「……仕事、見つかるかな」
「さぁな」
「ぼく、織物の加工をしてみたいんだけど」
「織物? 出来るのか?」
「ううん」とぼくは否定する。「出来ないけど」
「じゃあ、何で」
「それは……」
俯き気味に、至当の問いに答えあぐねていると、どこからかフワッと爽やかな香りがした。その香りは、しかし花や果実の芳香のようなはっきりとした香りではなく、何というか、風のように無臭であり、また、風のように滑らかで爽やかで清々しい、一種の空気の流れなのだった。
人影がぼくのそばを通った。横切ったのだった。
顔を上げると、ひとりの女の子――年のころは、ぼくとさほど変わらなそうに見える女の子が、歩いていた。薄褐色の長い髪は、くせ毛なのか、微かにウェーブしていて、いささか乾燥気味のように見えるけど、綺麗な髪だった。着ているものは、ぼくほどではないにしろ、それなりに着古している、しわしわのスカートとチュニックなのだけれど、全体の雰囲気は、得も言われぬ魅力を帯びている。
彼女は、ぼくの視線に気付いたのか、こちらを歩きながら振り返り、ぼくらは目線を交えた。互いに見合っていたのは、ごく短い時間だっただろう。ぼくも彼女も、どこか相手を怪訝に思う風に見ていた。その後、彼女は特に反応を見せることもなく正面に向き直り、両手で抱えている、色とりどりの糸束で満杯の籠を、ある建物へと運んでいった。その建物は、服屋のようで、軒先には、各種衣料品が物干し竿にかけて売られているのだった。ぼくは彼女の後ろ姿と、そのいなくなった形跡を、ぼんやりと、見るともなしに、見ていた。
「まぁ、いいさ」、とブルーノが、放心状態のぼくのそばで、独り言めかして言う。「織物も候補に入れてやるよ。だが、順番っていうものがあるからな。稼げる仕事から探すのが正攻法ってものさ。第一には木工品の加工を尋ねて、それがダメなら、考えてやるよ」
次の旅路をいくための路銀を稼ぐための仕事。もしも――その可能性は低いけれど――定住出来るような盤石な仕事があれば、ぼくらの旅はめでたくおしまいになり、ブルーノは親方となって、ぼくはその弟子となって、あるいはブルーノが結婚するとか、ぼくが毎日そこで安気に過ごせる立派な自宅を持つとか、そういう幸運に巡り合えるかも知れない。
だが、すでに何か所か人里を巡ってきたぼくの経験からすると、そういう楽観的予想を持つのは、賢いことではなかった。
結局今回も端くれのような仕事をして、端くれのような小金をある程度稼いで、また苦しい旅路へと踏み出すのだと思う。
今までその繰り返しだったし、あるいはひょっとすると、これからも同じなのではないかと、そういう風に考えると、ちょっと気が遠くなってくるようだった。