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オットーは仕事のため、城下町の役所で配達する荷物の検査を受けた。役所の役人たちは軍の息がかかった者ばかりで、訪れる町民に対し、いささかの寛容さもなく、煩雑で厳しい手続きを課した。こと細かい問いかけや、用紙への記入事項が手続きにはたくさんあり、時間が要された。
オットーは、以前、宛先が敵国だからという理由で飛脚の仕事を却下されたことがあったが、今回は寒村への配達であった。
その村は、オットーの応対を担当した役人さえ全く見聞きしたことのないところだったが、無闇に許可すると後で何か問題があった時に叱責を受けたりするかも知れないという
やれやれ、という感じで検査の手続きを終えると、オットーはどっと疲れを感じた。手続きがいたずらに煩多になったことによる、本来感じる必要のない疲れだった。
飛脚などやめてしまおうか、と、オットーはぼんやり思った。重労働で薄給だし、栄進する展望もない、必要のない不便を被ってまで続ける価値はないだろう。
だが、とどのつまり、オットーにしてみれば、あらゆる職業の中で一番馴染んでいるのが飛脚であり、それ以外に就業するとなると、迷って頭を抱えるのだった。
加えて、どの職業に転じようと、目下グルンシュロス城下町の政権は武官が掌握しており、あらゆる商売は厳格に監査されている。
従って、自由を求めて飛脚をやめ、他に転職したところで、結局また同じ目に遭う可能性が高いのだった。
オットーは軍人たちが恨めしかった。いかめしい面立ちで城下町の通りを占有し、無辜の町民をおののかせる軍人たちは、彼の目には、凶悪に映った。
オットーは、役所を出、雪の降る中、役所でのことを報告しに行こうと、事務所の方へ歩き出した。まだ昼間だったが、雪雲が空を覆って薄暗く、足元は雪が積もって歩きにくかった。
理不尽に対する苛立ちとわだかまりより、オットーは右手の拳をギュッと握り締め、彼が沿って歩く石の城壁を、立ち止まって、殴った。
ゴツンと鈍い音がし、ひどい疼痛が拳全体に広がった。
「――ッ!!」
オットーは矢庭に顔をしかめ、拳をほどいて痛みを和らげようとして、手をヒラヒラと振った。
ジンジン痛む手を広げ、手の甲を見てみたが、指の関節辺りの皮がいささか剥け、血が滲んでいた。
彼は応急処置として、足元の新雪をすくい取り、傷口に擦り付けた。
オットーは、軍人のする本格的戦闘はもちろん、その辺でわんぱく小僧のする大人にとっては微笑ましいだけのケンカさえ経験がなく、人を殴ったことがなかったし、殴られたこともなかった。
ハァ、とオットーはしょんぼりため息し、事務所へと歩を進めると、痛む手がきになって見てみた。血はまだ止まっていなかった。
何をしているのだと、オットーはみずからに呆れ返るばかりだった。
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