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その日の朝は、空の雪雲がひとまず去って晴れ渡っており、まだ暗いけれど、朝日が昇れば眩しい光輝を放つことが予想された。
積雪はまだとけずにどっさりと残って人々の交通の妨げとなってはいるが、見晴らしがよく、そういう意味では、旅日和であると言える。
まだ両親がぐっすりと睡眠している中、オットーは起き出して来、冬の寒さに身震いして、旅の装備を身に付け、準備した物を携えた。角笛や、短剣や、客への郵便物が詰まった壺を収めた革袋など。
パンを一切れだけ口に含むと、いってきます、と呟き、家と家族を後にした。
冬の装備というのは、防寒などのために、どうしても嵩張りがちで、動きが渋いのが問題だった。オットーは色々とブツブツぼやきながら、歩みを前に進めた。
未明と言える時間、城下町は、まだ深夜同然の暗さで、松明を燃やさないと、先が見えなかった。雪がやんで視界を遮るものはなく、後は日が昇りさえすれば、ずいぶん進行が楽になるだろう。
城門まで行くと、壁に篝火が照っており、その下には、衛兵がおり、ちょうど鎖で上げ下げする跳ね橋を下ろそうとしているのだった。
朝がやってきた。朝の到来を知らせる鶏の声が微かに響いている。
衛兵が、ウィンチより下がる鎖の輪っかに掛かっている金属の重しを外すと、ウィンチがガチャガチャという音と共に回りはじめ、橋がゆっくりと傾いていく。
衛兵がふとオットーの存在に気付き、「何者だ」、といかめしい声色で質す。
「飛脚の者です」、とオットーはへりくだった調子で答える。「旅のため、御通し願いたく存じます」
「旅? どこへ行くのだ」
「すでに、役場にて許可は得ています。証明書がありますので……」
オットーはゴソゴソと革袋の中を手で探り、一枚の用紙を取り出して示す。
「――村?」、と衛兵は村の名を言う。「聞いたことがないが、どういう村だ」
オットーは思わず苦笑をこぼす。どういう村か、彼にも分からないのである。
「さぁ、いかんせん辺境の村ですから、詳細は存じません」
「ふむ」、と衛兵は顎を持って、訝る様子だ。
衛兵は、市民軍ではなく、王国に直接属する兵士であり、城門の出入りを厳しく取り締まっているのだった。
「小さい寒村ですから、この国に仇なすほどのものではないかと」
「役場が許可をくだしたということは、つまりそういうことなのだろう。なれば、通ってよろしい」
問答の間に、上げ下げするのに時間のかかる跳ね橋が、すっかり下がっていた。
ようやく外に出られる、とオットーは胸が膨らむ思いだった。外に出さえすれば、監視が付いてくるわけでなし、城下町より、伸び伸びと過ごすことが出来る。勿論、旅の不便はきっちりと付きまとってくるが。
空には、ぼんやりと朝日が滲み始め、夜の暗闇との間に境界線を成していた。
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