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エルマの勤める花屋では、基本的に取り扱われるのは、装飾用だったり贈呈用だったりする花々だが、一部、違うものがあった。
それは、あまり目立たないが、隠されているわけではなく、訪れた客に求められるなどすれば、販売されるのだった。
薬草だった。そして薬草は、しばしば、花屋の近傍にある薬屋へと届けられ、薬品へと加工されるのだった。
薬屋は、レックスという名の者が運営している。男で、三十代であり、背が高く、暗緑色のローブを纏っている。その年代にしては、白髪がやや多めで、全体の髪色をグレーに見せている。
薬屋は、花屋を出てちょっと歩いた先の丁字路の向こう側にある。あまり大きくない土壁の建物であり、車止めの下の扉を開けて出入りする。
部屋の床は石を敷き詰めたものとなっており、カウンターの向こうには、薬壺がぎっしりと並ぶ棚であり、壺それぞれには、管理のため、どういう品種の薬草が入っているか明記されている。
カウンターの上は、店を訪れた客とのやり取りをするところであると同時に、薬品を調合などして加工する作業スペースでもあり、そのためのすり鉢やすり棒が置いてある。
店そのものはこぢんまりとしているものの、レックスの薬はよく効くという好評があり、また、彼は才気に恵まれた薬師であり、信頼があった。花屋のエルマは、しばしば彼に花についての知識を求め、そして彼は、彼女が求める答えを、ほとんど常に用意してやることが出来るのだった。
城下町が物騒になってから、レックスは、あることに関心が向いていた。というのは、いつしか出回るようになった噂のことで、その噂というのは、城下町において反逆の罪を着せられた者は、ペナルティとして劇物が与えられるというものだった。
薬師として、レックスは、その劇物の詳細が知りたかった。摂取したが最後、体がカッと熱くなって、やがて悶え苦しんで絶命するそうだ。
毒草は様々あり、種類によって、摂取した際の症状や異状の現れ方が変わるが、噂の劇物は、レックスの薬草の知識の中には、該当するものがないのだった。
勿論、レックスにとって未知の薬草や毒草はたくさんある。
カウンターの椅子に座って毒草の図鑑をパラパラとめくって、彼はそれらしいものを探していた。
すると、ふと、扉がノックされ、訪問者が来たようだ。
「エルマ」
現れたのは、頭巾をかぶった花屋の少女だった。おさげ髪を覆う頭巾には雪がびっしりと付いており、花屋との距離はさほどないのに、外では雪が、したたかに降っているようだ。
「頼まれていた薬草を届けに来ました」
そう言って、エルマは壺をカウンターの上に置く。
「ありがとう」
レックスは礼を述べ、壺を開けて中を確かめる。紐で括られた薬草の束がやや萎れて横たわっている。彼の熟知した薬草であった。
エルマは用を済ませて花屋へと帰り、レックスはというと、届けられた薬草の壺を足元に置いた後、やはり、劇物のことが気になって、また図鑑を開くのだった。
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