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町の一隅にある、二階建ての建物。一階は石を積み上げた石造りで、二階は木の枠に土を塗り込んだ土壁となっている。
開放された建物で、そこが、ぼくらが村を訪れて必ず挨拶に行くことにしている、商工組合、すなわちギルドの寄り集まるところ、いわゆるギルドハウスなのであった。壁付けの看板には、その町、その村のギルドの紋章が描かれている。
お邪魔しますと中に入ると、そこは、特別奇異なところなどなく、ゆうべ食事した居酒屋のように、広いベンチと机があちこちにあり、内装は至って質素で地味だった。
受付には気だるそうに葉巻をくゆらせている、ゆったりしたチュニックの上に麻のベストを羽織った案内人のおやじがおり、彼が仕事の斡旋をしてくれるようだ。
「失敬」、とブルーノは受付のカウンターへ向かい、低姿勢で挨拶する。「仕事を探しに来ました。ブルーノと申す者ですが……」
ギルドハウスの中では、武装した兵士らしき者が村民と懇談しているところや、思うに職探しに訪れたであろう、うだつの上がらない男が、何をするでもなく、ぼうっと他人の動向を観察しているところが見えた。
ギルドというのは多分、職業紹介所のような性質を持っているのだろう。今まで何か所かギルドの世話になったが、必ずと言っていいほど職にあぶれた卑しい者の姿があり、ぼくにしてみれば彼らは、同じにはなりたくないと思わせる反面教師であった。
ブルーノは、今までのこと――要するに、どういう職歴があって、どういう技が成せるかといったことを簡単に説明した。何となれば、ぼくらはジプシーであり、一切の面識がなく、いきなり現れて仕事をくれというのは、無礼だし、無理があるのだった。
受付のおやじは、ブルーノが「以上です」、と話を結ぶと、「成るほど」、と、一応はぼくらを信ずるに足ると思ってくれたように返し、羊皮紙の厚い帳簿をパラパラと通覧した。
「木工品の加工だね? あなたのご所望は」
「そうです」
「木工品の加工は」、とおやじは、まるで残念だとでも嘆くように、肘を突いて頭を抱えて低く唸ると、顔を上げた。「悪いけど、この村にはないね。あいにくと、人手は足りてる」
「では、余っている仕事といえば? ぼくらは遍歴職人で、旅をしないといけないんです」
「あぁ、遍歴職人の事情は分かっとるよ。大変な生活だ。遍歴職人は、常在出来る土地を持たず、各地を転々とさまようのだな」
ふと、おやじがぼくの方を見下ろし、ぼくは彼と目が合った。一瞬のことだったが、おやじの目付きは、そこはかとなく、心中でぼくのことを、憐れむなり、蔑むなりしている目付きに見えた。
「時計の組み立てなど、専門職はいくつかあるんだがね、あなたの職歴と適合するものはない。残念だが」
「それなら、素人でもできる仕事でもいいんです。親方になれる仕事がないというなら、何としても、旅費を稼がないといけないんでね」
「そういう話なら、こちらとしても協力を惜しむことはない。ただ、望ましい報酬はないし、その上、楽でもないよ。それでもいいかい?」
「はい、構わないです」
「分かった。では今から人手を求めてる仕事を確認するから、また後で来てくれ。その辺のベンチで座るのもよし、しばらく外出するもよし。あなたの顔は覚えたのでね。そちらの坊ちゃんの顔も、ね」
そう言って、おやじは再びぼくと目を合わせ、微笑んだ。その微笑には、しかしやはり、憐憫の情が、こもっているようで、ぼくは釣られて微笑むということが出来ないのだった。