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城下町の修道院学校で全学年の全生徒が学ぶことになっている神学は、音楽学や、幾何学などの科目とは、事情が異なっていた。
まず、神学は必須科目であり、興味がなかったり苦手だったりするという理由で学ばないという選択をすることは出来ず、必ず講義には出席しなければならず、欠席すれば評点が下がり、最悪の場合、素行不良として放校処分となる。
神学は、多くの生徒にとって奇異であった。
あらゆる学問が、世の道理を解明するものであるのに対して、城下町の修道院学校で説かれる神学――『真光教』神学は、世界の始まりと現在までの過程を、神話を基礎として、独特の解釈によって跡付けており、いささか歴史学に近いところがある。天使などの架空の存在が登場し、ファンタジーのように思わせるが、神学の講義を担う祭司――教員ではない――は、あくまで真実として語る。
『真光教』神学は、そもそも、その信仰を前提としなければ、受容出来る性質のものではまるでなく、信仰心の弱い者、ない者は、戸惑いを覚えて、あるいは脱落するか、あるいは無理矢理暗記するしかない。
将来華々しく暮らしたいという望みを持つ進取の気性のある者――大多数の男子生徒のことであるが――は、積極的に講義に臨んで神学を吞み込み、優先的に騎士に叙されたいが為、少しでも他者よりよい評点を取ろうと奮起するのだった。
中には例外があるが、女子生徒は、男子生徒に対しては、神学への熱意という点で隔たっている感じがあり、勿論、仲睦まじいカップルが何組も存在してはいるものの、騎士になって出世したいという野望を持つ思う男子と、教養を積むという目的がせいぜいの女子との間に、温度差が生まれるのは、当然のことなのかも知れない。
リーザには親しくする男子は特にいなかった。彼女は垢抜けた容貌なので、気に入られたいと思う男子がたくさんおり、色々とアプローチを受けたが、下心が透けて見えるけだものに、容易に心を開くことはなかった。
「神学ってよく分かんないよね」
と、修道院学校の廊下をリーザと並んで歩くアリサが言った。二人共、数冊の書物を胸に抱えている。
「そうだね」、とリーザは首肯する。「わたしもよく分かんない」
「真面目に聞いてたらバカバカしくなってくる――あっ」
アリサは呆然と手のひらで口を覆う。
「アリサ、シッ」
リーザが眉をいからせ、人差し指を口元に立てる。
「ごめん、リーザ」
リーザは、キョロキョロしたが、監視係の上級生は近くにはいないようで、「フゥ」、と安堵したようにため息し、途絶えた会話を再開した。
「窮屈ね。自由におしゃべり出来ないっていうのは」
「そうね。ひょっとしたら、わたし、エルマみたく、店番してるのがよかったかも」
「え? 店番?」
「何でもない。ただの独り言」
「そう」
「あれ見て、リーザ」
「?」
「彼ら、勇ましくやってるわ」
リーザとアリサは、廊下の壁に空いたアーチより、中庭を窺った。
小雪の降る中庭では、男子生徒たちによる訓練が行われており、武装して、目標である人形に向かって馬で突っ走り、持っている槍で突いて走り抜けるのだった。要領を得ない者だと、突撃した後、人形が持っている紐の先に付いた重しが遠心力で体に当たり、激痛を食らうのだった。二人がその時にたまたま見た者は、あまりうまくないようで、まず馬の操り方が悪く、走りが鈍かったし、案の定、突撃後、回転した人形の重しが脇腹に当たって落馬し、悶え、周りを囲う男子生徒の中には、大声で嘲笑う者がいた。
その様を見た彼女らは、どこか寒々とした気持ちになり、どっちが合図するでもなく、訓練の見物をやめて再び歩き出し、次の講義が行われる教室へと黙々と向かうのだった。
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