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その日の城下町も、前日同様、寒天が荒れ、ドカ雪が降り、視界は白っぽく煙って悪かった。何よりひどく寒かった。この荒天はしばらく続く模様だ。
花屋は相変わらず商売が低調で、店番を務める娘の自習が捗った。
花屋の運営は大人であるエルマの両親が担っていたが、田畑を耕作することの出来ない冬季においては、父は出稼ぎに行き、母は家事に精を出した。結局、ちゃんと店番を集中して出来るのは、エルマをおいて他にいないのだった。
客が疎らなことで、マイペースに商品棚の整理や図鑑での自習をほとんど楽しめてさえいるエルマは、鼻歌混じりに、薬屋に届ける薬草の準備をしていた。プランターに育ったものを根っこから引き抜き、土汚れをサッと取って、紐で結んで束にまとめ、壺に納める。
「じゃあ、お母さん、ちょっと行ってくるね」
と、娘は、テーブルで花束をアレンジしている母に言う。アレンジするといっても、種類が限られているので、どう選んでみても、あまりパッとしないようだ。
「うん。気を付けて行ってらっしゃい。雪の降り方がキツいから」
「はーい」
「あっ、そうだ。エルマ、ちょっと」
「何?」
母が手招きし、エルマはそばに寄る。
「これ、持っていきなさい。御裾分け」
「わぁ」
エルマが受け取ったのは、籐皿に並んだドライフルーツだった。保存食であり、冬など、食料が乏しくなる季節に重宝される。
薬草の壺に加え、御裾分けを持ったエルマは、意気揚々と、頭巾を被って表へ出ていったが、まだ、薬屋で起きたことについて、何も知らないのだった。
前回彼女が届け物をしてから、数日が経っていた。
花屋より薬屋は、目と鼻の先といった距離だった。
薬屋の外観には変化がなかった。だが、狭い車止めの下の扉を開けて中に入ると、彼女は様変わりしていることに気付いた。
中は、カウンターも、商品棚もあるにはあり、彼女がよく知る薬屋の内側なのだが、肝心の薬師であるレックスがおらず、代わりに数人の見ず知らずの男たちがいるのだった。
少女の訪れに、黒装束の男たちはやや訝る感じの目を向けるだけで、歓迎の言葉をかけたりせず、黙々と、作業しているようだった。一人は、商品棚の整理、一人は、すり鉢での薬品の加工(そこそこ習熟した手付きだ)、一人は、同じカウンターで、薬草と思しき植物のより分け。
エルマはにわかに不審に思い、引き返そうとしたが、商品棚を整理するひとりに注意を向けられ、ヘビに睨まれたカエルのように、委縮して、俊敏に身動きが取れなかった。少女が一目見て怯えるほどには、男たちの容貌はいかめしく、また、巨体なのだった。
ツカツカと歩み寄って、膝に両手を突いて前屈みになり、男は「何の用だい、お嬢さん」、と、彼が出来得る限りのやさしい声色で、相好を崩して尋ねた。
「わたし」、と言いかけるエルマの声は、微かに震えていたし、またボリュームに乏しかった。「薬師のレックスさんに、用があるのですが」
「あぁ、彼なら」、と男は、瞳をそっぽに流して答えようとする。「今、ちょっとお出かけ中でね。けど、当分帰ってこないと思うよ、多分」
「そうですか」
俯いて納得したエルマは、簡単に暇乞いを告げ、そそくさと薬屋を後にした。壺の薬草も、御裾分けも、持って帰るのだった。
何で、どうして、とエルマは混乱していた。
薬屋の様子が変わっていた。レックスは外出中と聞いた。だが、彼らは一体何者なのか? あの風体、あの口調、男はああいう風に伝えたが、エルマは、疑雲を晴らすことが出来ないでいた。
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