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エルマにとって、レックスは、決して赤の他人と断ずることが出来るほど、疎遠ではなかったし、むしろ親密だった。
エルマが働き、また住んでもいる花屋は、古くより薬屋と取引し、両者は互恵関係にあった。
エルマが生まれた時、すでにレックスの薬屋は存在しており、レックスはアリサが生まれた時と同様、花屋の一家が子宝を授かったことを祝福した。
彼はだが、ずっと結婚せず、独身だった。決して人間性に難があるわけでなく、むしろ彼は、真摯に仕事に打ち込む働き者で、見た目に関して言えば、老けてはいるものの、そこそこシュッとした面立ちだった。
花屋の二階にふたつある内の、一方の寝室では、母娘がベッドに座って話していた。重い沈黙が下りていたが、ふと、娘が「そういえば」、と口にすることで、何となく暗い雰囲気が和らいだようだった。
「そういえば――レックスさんって、どういうひとだったかしら。わたし、学校に行くようになってからは、全然顔を合わさなくなっちゃった」
「レックスさんは」、と母が、懐かしそうに言った。「もともと、この城下町のひとじゃなかったの」
「嘘。本当?」、とアリサはびっくりしたように目を見開いて返した。
「アリサだって、ちゃんと知ってたことのはずよ」
「覚えてない」
「嘆かわしいわねぇ」、と母は苦笑する。「アンタ、小さい頃は仲良くしてたのに、いつから疎遠になったの?」
「疎遠っていうほどのことはないと思う。たまたま、会う機会がなくなったっていうだけで」
母は、薬屋のことを滔々と語った。彼女は、彼のことをよく知っていた。
もともと城下町の住民ではないレックスは、よそより移住してきた異邦人だった。彼は当初、何をするにも覚束なく、かといって、頼れるツテがなかった。
「わたしは、ずっとこの町で暮らしてたから、移住者を世話するのは、そう難しくないことだったわ」
「そう言って」、とアリサはいささかニヤ付く。「本当はお母さん、レックスさんに惚れてたんじゃないの? レックスさん、結構イケメンだし」
「馬鹿ね。その頃わたしはもう結婚してたもの」
と、娘の茶化しを、母は一蹴するが、実際は、一抹の好意があったのだった。勿論、それぞれ今より若かった過去のことだ。
「レックスさんが来たのは、アンタが生まれる一年前のことだったと思う」
新しい町にまだ馴染まない移住者を、原住民がフォローすることになった。
店舗として使用するのに適した空き家――今の薬屋である――のそばを、レックスは心許なそうにウロウロしていた。そして、近所の花屋の夫妻は、ウロウロしている彼に注意が行き、話しかけ、そして互いに知り合った。その時のやり取りが、末永い関係の端緒となった。
花屋の妻は、忙しい夫にかわって、勝手が分からない薬屋に、色々とやさしくレクチャーした。城下町の行政が管理する空き家の契約、税の種類とその納め方、地区の冠婚葬祭を統べる教会での儀式の内容と日時など。
薬屋は、地元の者の支援を心からありがたがり、花屋夫妻に好印象を持ち、よく慕った。
その頃の回想は、思い返すアリサの母にとっては、懐かしく、やさしい光に包まれたものだった。
だからこそ、起きてしまった事件の悲しさや憤りが、
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