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火種はずっとあって、しかし燃え上がらずに、ジリジリとくすぶっていた。
グルンシュロス城下町の無辜の町民たちの不平不満のことだ。
彼らは、面従腹背に徹し、表向きは、バルビタールの派遣軍の騎士たちに対し、従っているように見せ、実際は、反感を募らせていた。
その反感において、町民たちの一部が合同し、ある時、ひとつの企てが成された。
武力闘争による政変だった。暴動を起こし、その混乱に乗じて、騎士たちを打ち倒してしまおうということだった。
それは、町民たちにしてみれば、頼もしくも、魅力的な企てである違いなかった。もし実現すれば、彼らにとって本意ではないよそ者の支配を覆し、町の運営の主軸を、彼らへと返すことが出来るのだ。
ところが、企てに賛同する者は、全員ではなかった。
確かに多くの町民が、秘密裡に行われる会合で『革命』について話し合い、色々と取り決めをしたが、中には企てには乗らずに去っていく者がいた。彼らは、騎士たちの実力を相当のものと見なし、反抗することを愚かしいとか、無益・無明と思い、断念したのだった。
挑戦するか、平伏するか、その二択で、町民は悩んだ。勇猛で楽観的な者は争おうとし、沈着で静観的な者は、現状に甘んじ、忍苦しようとした。
誰もが一致団結を望んでいたが、結局、思い・考えの違いから、対立が生じ、互いに譲らず、分裂した。
そして、城下町の軍に属する派遣軍ではない、地元の兵士たちが、ある朝、城に奇襲を仕掛けた――。
城門では、常に衛兵が警備に就いており、真夜中でも、篝火を焚いて寝ずの番に務めていた。
冬の夜は厳しく、厚い鎧を纏った衛兵は、待ち焦がれていた夜明けに近付くと、ソワソワした。彼は派遣軍所属の鍛えられた騎士だったが、やはり人間であり、冬の外での警備は寒くてツラいのだった。
雪降る夜だった。
遅い日の出が、暗い空に微光を差そうとするその直前、ひとりの者が、城門を訪れた。防寒着を身に纏って雪よけの帽子を被り、ただの町民のようだった。俯いていて表情が見えず、衛兵は不審に思ったが、侮ってのんびりと構えた。
「こんばんは」、と町民が挨拶する。
「こんな時間に、どうしたというのだ」
衛兵が、半ば嘲り、半ば呆れて、尋ねる。
「お城の門って、何時に開くんでしたっけ?」
「夜明け後だ。貴様、城に用か? そうだとしても、まだ早い!」
衛兵はシッシと、手で退ける仕草をした。相手にする価値がないとでもいう感じの接し方だった。
町民はだが、下がらず、刹那、衛兵と睨み合う恰好になった。
その後、町民はモジモジしてお腹の当りで手をうごめかしたかと思うと、シュッと素早く動いて衛兵の虚を衝いて、足を引っかけてよろめかせた。
「――ッ! 貴様!」
すると、重い鎧を纏った衛兵は体勢を維持出来ず、転倒した。その隙を狙って、町民は馬乗りになり、衛兵が身動き出来ないように関節をかため、衛兵が付けている兜を力一杯緩めると、露出した喉に、短剣を突き刺した。
ドッと血しぶきが上がり、衛兵は即死した。重装を纏っていたというのに、ずいぶん呆気なかったが、町民が要領を得たうまいやり方で暗殺したのだった。
城門のガードマンが死ぬと、隠れていた城下町兵団の、今回の政変の企てに賛同した兵士たちが、こぞって現れた。
火蓋は切られた。くすぶっていた火種の火が、メラメラと燃えだそうとしていた。
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