***
グルンシュロスの城塞は、二重の城壁によって守られていた。外側の城壁は、町の内外を隔てており、内側の壁は、城塞の内外を隔てていた。
革命を目論む城下町兵団の城への夜襲が企てられ、最初の奇襲が成功し、彼らは、次なる段階へと移行しようとした。
死んだ衛兵は城下町兵団の者に身ぐるみを剥がれた。騎士の装備は豪華で、また堅牢で、非常に有用だったのである。奪った鎧兜は選ばれた兵士によって早速身に付けられた。
見張りの衛兵はひとりだけだったが、彼が転かされた時、主塔の胸壁に立つ別の衛兵が、地面に倒れた鎧の金属の音と、人の声と思しき音に違和感を覚え、下方を窺った。
だが、彼は長丁場の夜警にすっかり眠気を覚え、視界がやや霞み、また疲労から、気のせいだろうと状況を誤認してしまったのだった。
衛兵を始末したものの、城門は閉じられており、問題はどうやって進入するかということだった。投石器などは巨大で悪目立ちし、運び出すことさえ困難だった。そもそも隠密さを尊ぶ作戦で、投石器など使えるはずはなかった。
彼らは、梯子を持って来、篝火が照らさない陰の辺りに立てかけ、
城下町兵団は、革命の実現を切に祈ったし、奇襲の成功で、士気が高まり、多くの者が、ひょっとすると勝利を得られるかも知れないという予感がした。相手は強大だが、深夜・未明という時間帯に進攻すれば、搦め手を強襲出来る。
――だが、強大無比で他国との戦争で何度も勝利をおさめているバルビタール派遣軍の騎士の城塞が、たった一度の夜襲で崩落するものだろうか?
眠たい衛兵のいるのとは別の胸壁では、シャンとした衛兵がこうべを下げているそばで、大男が腕組みして立ち、下を見下ろしていた。黒いチュニックに、黒いマント。後ろに撫で付けられた、油を塗ったツヤツヤの彼の白髪は、バタバタと翻るマントとは違い、高所の風に吹かれても、まるで乱れる気配がない。
「フン」、と彼は鼻で笑ったが、どこか不機嫌そうだった。
「異音がしたと思って来てみれば、やはり侵入者か」
彼はやれやれという風に首を振った。
「愚者どもめ。貴様たちごときが、たとえ奇襲を用いたとて、騎士たる我々に敵うものか」
カツカツ、と足音がし、誰かが階段を胸壁の頂上へとのぼってくるようだ。
「グレゴール司令官殿!」、と鎧の騎士が跪いて呼びかける。「応戦の準備が万事整いました! ご命令を頂戴したく存じます!」
「命令は――」、と老グレゴールは下を見下ろしながら返す。「奴らを城内に一歩も入れさせるな。打ち退けてしまえ。可能であれば、皆殺しにしろ」
「了解致しました!」
騎士は、一礼して立ち上がり、上ってきたばかりの階段を颯爽と下りていった。
「要らぬ争いだ」、と老グレゴールは呟く。「何の意義も、意味もない。無明だ。鼠の軍勢が、猫の軍勢を圧倒出来るものか」
司令官は、「よく見張っていろ」、とそばの衛兵に注意すると、胸壁を去っていった。
司令官の目には、下方でゾロゾロと進行してくる城下町兵団の兵士たちが、うごめく虫けら同然に映っていた。
***