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ある日、城下町の広場に、御触書の立札が立った。
通りかかった人々は雲合霧集して御触書を読んだ。多くの者が、気分を害したように顔をしかめた。
御触書が伝えるところによると、某月某日某所にて、刑罰の公開が行われるそうだ。
刑罰の対象たる囚人はたくさんおり、彼らは政治犯で、政変を目論んで城へと夜襲をしかけたという。
御触書を見た全ての者が、ことのいきさつを何となく知っていた。結局、最終的にはくみしなかったものの、取沙汰される政治犯は、外部の者ではなく、城下町に住む住人であり、御触書のところにゾロゾロと集まっている者たちの、あるいは知り合いであり、あるいは近親者なのだった。
刑罰の内容は目を覆わんばかりの情け容赦のないものだった。平たく言えば、拷問だった。
公開の刑罰を受けるのは、政治犯のグループの主要人物たち数人であり、後の仲間たちは、懲役などの別の形で、ペナルティを被るのだった。
政変の密談の時に、冷静に後の展開を予測出来た者は、こうなって当然という感想を持って、冷やかに、だけど心中では悲嘆して、文面を眺めた。
雪が降っていて、御触書のところでじっとしている者たちが被っている帽子にうっすらと積もっていった。朝の空気はやや青みがかったように見え、薄暗く、そして極寒だった。
人混みの中には、修道院学校に通う女学生が混じっており、リーザと、アリサなのだった。
二人共、絶句という様子だったが、リーザが「惨いものね」、と、誰に言うでもなく、御触書に関して呟いた。「見せしめのために、公開するんでしょうね」
「わたし、見たくなんかない」、とアリサが冷然と述懐する。
「わたしだって、同じ」とリーザは共鳴する。
何だか二人共、頭痛がしてくるようだった。不安が募って、ピリピリした緊張感が昂じてきたせいかも知れない。
彼女らにおいては、寒さと怯えで、心臓はすっかり竦み、落ち着かない鼓動を打っていた。吐く息は白く、喉にまで冷気が通ってきて苦しかった。
ふと、金属の音がし、リーザとアリサは、振り向くと、鎧を纏った数名の騎士たちが、傲然と歩いており、人混みの方へ近付いてくると、御触書のそばに立った。何か告げに来たようだ。
中には、怖気を震い、逃げ出してしまう者がいた。騎士たちは、だが、構わなかった。
「事件があった」、と騎士が叫ぶ。「詳細は、お触れにある通りである。城政に反逆しようとした痴れ者がおり、某月某日、広場の処刑台にて公開処刑を執り行う。これは、神の御前に奉呈する厳粛なる儀式であり、町民は全員、必ず参加するように」
怖れをなして逃げ出した者が、騎士に大声で呶鳴られ、捕らえられ、引きずり戻された。
騎士は、御触書を読む町民とは打って変わって、冷血に、いささかも顔色を変えなかった。
――リーザとアリサは、暗澹たる気持ちになった。
人混みが、蜘蛛の子を散らしたように解散する。
学校へ行く途中だった二人は、歩き出し、その足取りは、憂鬱に負けて、重かった。
リーザは慨嘆した。いつから、世界はこれほどまでに、冷たく、また暗く、そして惨たらしく、変貌してしまったのだろう。
父母がいて、執事のコンラートがいて、晴天の下で、麦畑の麦がそよ風に一斉に揺れている風景を、些少の眠たさと共に、屋敷の窓より眺めていたあのやさしくて風雅だった時間は、一体、どこへ行ってしまったのだろう。
時代は今までと、くっきり変わり果ててしまったようだった。
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