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極寒の真冬にも、戦争は行われる。ただし、条件はやはり、春夏秋と比べ、厳しいものになることが必至だ。
みずからが切り盛りしている薬屋より、騎士たちによって強制的に連行されたレックスは、グルンシュロス城下町を離れ、旅の途上だった。
とはいえ、レックス自身の意志で成された旅ではなく、彼が命令で強引に編入させられることになった、各地に展開されているバルビタール派遣軍の方面隊に参加するためだった。
雪原を馬車が進む。
荷車を曳く馬は、馭者に操作され、せっせと足を運び、その歩行に伴って、馬の足と車輪のそばでは、細かい雪の粉末が舞い上がった。
幌に覆われた荷台の中で、レックスはしゅんと背中を曲げ、うなだれていた。馬車の進行方向に対して平行に、荷車の両側に接して並ぶ長椅子の片方に、彼は座っており、その向かい側には、レックスの目付け役の騎士が、彼とは打って変わって背筋をピンと伸ばし、威儀を正して座っていた。
騎士は鎧をまとっているが、兜は脱いでいた。比較的若い男だった。
「やれやれ」、と騎士は呆れて言う。「まだ城下町に未練があるのか」
「勿論、未練はあります」、とレックスは、両膝に肘を突き、組み合わせた両手を見つめ、返す。「ずっと住んでいたところを離れるのは苦しくも悲しいものです。知人、友人がたくさんいます」
「薬屋殿」、と騎士が色を正して言う。「これは命令なのだ。命令は、従わねばならないものだ」
「その通りですが、わたしは、兵士ではありません。ただのしがない薬屋に過ぎません」
「だが、白羽の矢が立ったのだ。だが、偶然ではない。グレゴール司令官曰く、薬剤官を任ずるには、貴君を措いて他にいないということだそうだ」
「耳触りのいい甘言にしか聞こえません。わたしは、特別優れた薬師ではありませんので」
レックスは沈滞した雰囲を改めようとせず、騎士は、やはり呆れ、腕組みしてため息を吐いた。
馬車がガタガタと揺れる。
レックスは、幌をめくって外を見てみた、すると、眩しいほどの積雪が見えた。
「わたしは」、と幌を下ろしてレックスが言う。「いつ城下町へと帰れるのでしょうか?」
「分からない」
即答されたが、その内容に、レックスは失望するようだった。
「貴君は」、と騎士が続ける。「最早ただの薬屋ではなく、バルビタール派遣軍に属する衛生隊員なのだ。従って、上層部の指示・命令が下りない限り、基本的に、言われた場所で、言われた仕事を、言われた通りにこなすだけになる」
「自由などないと、そういうわけですね」
レックスは口角を少し上げ、冷笑した。諦めの境地に達した乾いた微笑みだった。
「その通りだ。だが、俸給は多いこと、請け合いだ。薬屋で稼いでいた時より、ずっと高額であることは保障する」
「わたしは、別にお金持ちになりたいわけではありません。自由な時間の中で、細々と、薬の研究に打ち込んでいたいだけなのです……」
騎士は微かに鼻でため息を吐くだけで、それ以上あまり真剣に取り合おうとせず、そっぽを向いた。
レックスは、無理矢理引きずってこられたこの状況にすっかり混乱し、戸惑いと怒りと悲しみとで、頭を抱えるのだった。
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