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ブレイズは、騎士同士の試合を沈黙して、腕組みして眺めていた。
彼の眼差しを窺ってみると、集中しているようであったし、他方では、ぼんやりしているようでもあった。
その様は、ぼくがリフレとミアと共にフェノバールの街路を行く途中見かけた時によく似ていた。壁に背を持たせて、何か注視しているようで、また同時に、ただ上の空でいるだけのようだった。
試合が進み、やがてブレイズの順番が巡ってくると、彼は兜を小脇に抱え込み、木の棒に刃物が付いた形式の槍を持って、団長のいる広場の中心へと進み出た。
ブレイズの相手は、兵団の部隊の隊長で、年長者であり、かなりの上級者のようだった。
二人は互いに対面すると、握手を交わして挨拶とし、兜を被り、団長の合図で、武器を構え、試合を開始した。
相手の武器も槍であり、互いの間の距離が長く、剣士のように激しい攻防は行われず、動きに乏しく割と地味だった。
さっきまで一触即発だったムードはすっかり落ち着き、賭け好きの騎士はニヤついていた表情を改めて真顔になり、最初の方の試合で敗北した騎士は、ちょっと離れたところへ移動し、心なしか沈んだ様子で、放心していた。
試合においては、ブレイズも相手も、槍の尖端が触れるか触れないかギリギリのところで間合いを置いて、好機が訪れるのを待っているようだった。
二本の槍が互いを差し合っているわけだが、一方の槍が、やけに尖端がブレていた。
ブレイズの持つ槍だった。鎧を被っているので真相は読めないが、余りの寒さに震えているか、あるいは怯えているのかも知れない。
ジリジリと、二人は一定の距離感で睨み合いを続け、審判である団長は、涼しい目付きで、彼らの動向に目を配っている。
戦いの作法にまだまだ疎いぼくは、じっと見守っているしか出来なかったが、二人共、隙がないように見えた。
隙がなければ、攻められない。隙がなければ、攻めてはいけない。
ふと、ブレイズは、好機と思ったのか尖端を相手に向けて構えている槍を上げ、「おぉ」、と雄叫びを上げ、前進しようとした。
その刹那、相手の熟練者は低く身をかがめるようにし、応戦する構えを見せた。
ブレイズは相手の槍を弾こうと動いたのだが、相手はそのたくらみを見切り、ヒラリとかわして、空隙となったブレイズの腹部めがけて、槍を突いた。
「そこまで」、という号令がかかり、二人はピタリと止まった。
勝敗は、一目瞭然で、ブレイズの槍の刃物が宙を差しているのに対して、相手の熟練者の槍の刃物は、今にもブレイズのお腹を貫こうとしているのだった。
試合終了。
二人は団長を中心に離れて向かい合い、一礼して、広場を後にした。
回廊の中へと帰ってきたブレイズに、ぼくは「お疲れ」、とねぎらったが、彼は積極的に取り合おうとせず、ほとんど無視する格好で、槍を槍立てに立てに行くと、兜を脱いだ。
ブレイズは、険しいやや青ざめた面持ちで、沈んでいるようだった。試合前のぼんやりした様子とは画然と違っている。
兜を脱いだ彼は、うっすらと蒸気が上がり、ずいぶん緊張して熱っぽくなっていたと見える。
ただの稽古の試合に過ぎない、といっても、その実情においては、命の取り合いに等しいものがあり、敗けた者は、やはり相応に無様だし、相応に悔しいのだった。
外部の脅威はすぐそばにあり、いつ有事が勃発してもおかしくはない。
城内に限らず、フェノバールの城下町全体が、やけにピリピリしているのは、そういう意識が、町民にあまねく通有されているためなのだった。
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